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東日本大震災を乗り越えた「R34 GT-R」への想い。親子の絆を深めた「スカイライン」感動の物語とは

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TEXT: 増田髙志  PHOTO: GT-R Magazine編集部

親子の会話を弾ませるRの凄さを見せつけられる

その後は周回に挑むため、BNR34を手に入れて「MCR」の門を叩いた。初めて会う小林真一代表を金沢代表は一発で好きになる。裏表のない性格の波長が合ったのだ。硬派な人柄に惚れ込み「親分」と慕う。

「自分でもMCRのようなショップを作りたい」

そう思っていた金沢代表は小林代表に背中を押され、RGFをオープンさせた。35歳の大決断だ。MCRで仕立てたサーキット仕様のR34は、38歳で手放している。存分に勉強できたので、今度は落ち着いたストリート仕様を作るために新たに別のR34を入手した。

ちょうどそのころ、高校時代から付き合いのある2歳上の先輩からR34が欲しいという相談を受けた。詳しく話を聞いてみると、中学生の息子と近ごろめっきり会話がないという。息子はR34が大好きでGT-Rが載っている雑誌を夢中で読んでいるらしい。そこでR34を手に入れて息子との距離を縮めようという作戦だ。何かとお世話になっている先輩なので入手したばかりのR34を譲ることにした。

息子にはR34を購入したことを秘密にして、突然、金沢代表が自宅に納車するというサプライズを決行した。結果は上々だった。息子は倒れるくらいに喜んでくれて、今度の休みはどこにドライブに行こうかとか、どんなチューニングを施そうかとか、想像以上に会話が弾むようになっていったそうだ。

街乗りでの扱いやすさと加速を楽しむ仕様に

何度かの仕様変更を経て現在はHKSの2.8LキットにGT2530ターボをツインで装着してVプロで制御し、Vカムもセットしている。インタークーラー、オイルクーラー、マフラー、燃料ポンプ、それにエアロはNISMO製で、インジェクターは850ccに交換済み。あえてエアクリーナーはノーマルだ。サスペンションはTEINのスーパーレーシングでブレーキは前後ともブレンボキャリパーによりサイズアップ。ホイールはエンケイのRS05RRの10.5×18+25をチョイスし、組み合わせるタイヤはハンコックRS4の285/35R18だ。

ブースト1.2kg/cm2で約600psを発生し、必要にして十分な仕様だ。高回転域よりも中間で力が漲る味付けで、とくにシフトアップしたときに小気味よくパワーがついてくることを重視している。

エンジン

先輩はサーキットへ行くわけでもないので、街中で扱いやすく痛快な加速力が堪能できるように仕立てていった。息子との会話のためのツール。それがこのクルマの最大の使命だったのだ。

「クルマは高かったけれど、息子との関係改善を考えると安かったよ」というのが当時の先輩の口癖。

しかし人生は容赦ない。幸せ絶頂の先輩家族に試練を与えた。東日本大震災である。先輩の自宅がある浪江町は揺れや津波による影響をもろに受け、先輩家族は無事に避難したもののR34は自宅に置き去りだった。そこで道路が封鎖される直前に金沢代表と先輩は、直接の被害を免れたR34を引き上げに向かった。巡回中のヘリコプターにサーチライトで照射されるという一幕もあった。防護服を着た二人を不審者だと勘違いしたからだ。まるでアクション映画のような体験を経てなんとかR34を助け出せた。

苛酷な運命を辿るR34を一生面倒見ると心に誓う

さらに先輩は建築用特殊車両の高度な運転技術を買われて、震災で冷却機能を失った原子炉に放水する車両のオペレーターを頼まれたという。消防や自衛隊の放水車では役不足なので、本来はコンクリートを圧送するドイツ製の特殊車両を使うことになったからだ。もちろん断ることもできたが、先輩は引き受けた。間違いなく危険地帯の最前線での作業。復興への貢献度は計り知れないものがある。

震災から10年以上。まだ傷跡は残っているが、再び以前の活気を取り戻すべく地域の再建は著しい。先輩の息子も今では立派な社会人となり自らR34を運転している。しかし先輩の姿はない。震災の2年後に癌を発症して他界してしまった。

「世の中は平等だとは思いませんが、それでも神様は先輩に酷過ぎると思います。良い人は早く逝くと言われていますが、それを実感しました。切ないです」

R34は先輩の家族にとっては形見のような存在。息子のR34に対する丁寧な扱いは、クルマではなく父親と接しているように思えてしまう。

「それほど特別な1台なんです。このクルマは自分が一生面倒を見ていきます。調子が悪くなろうものなら天国の先輩に怒られますからね」

今でもこのR34が入庫するたびに身が引き締まるという。男気があって、思いやりがる優しい先輩を思い出させられるからだ。

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