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フェラーリ「F40」生みの親ニコラ・マテラッツィを訪ねてきたスイス人親子とは? 亡くなる直前のエピソードを紹介【ユーコ伊太利通信】

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TEXT: 野口祐子(NOGUCHI Yuko)  PHOTO: 野口祐子(NOGUCHI Yuko)

電話帳を片っ端からアタック! 憧れのニコラへの訪問を実現

ピエールは小さい頃からF40が大好きだったという。雑誌やYouTubeで開発者であるニコラのことを熟知していた。ピエールにとってのF40は芸術作品。幸運にもその夢のクルマF40を手に入れることができた。次の夢はこのクルマを生み出したニコラ・マテラッツィに会って、開発段階の話を聞き、ぜひサインをもらいたいということだった。

「著名な絵画にはサインがあるだろう? ニコラは僕にとって最高の芸術家なんだ」

とピエール。「でも、どうやってニコラの連絡先がわかったの?」と尋ねると、「それが大変だったのよ……」と彼の母アメリーが答えた。

自動車業界でもメディア業界の人間でもない、純粋なフェラーリF40のエンスージァストの彼らにとって、ニコラ・マテラッツィはメディアを通しての存在だった。また、ニコラは現役を引退しているので連絡先を探すことは難しい。この探偵作業はイタリア語が堪能な母アメリーが担当することになった。

ニコラ・マテラッツィの記事はいろいろなところに掲載されている。YouTubeも至るところで登場している。出版社やメディア関係に連絡をするとプライベート云々と誰もニコラの連絡先を教えてくれなかったそうだ。

さて、次はどうしようか。サプリという街に住んでいることは何かで読んだ。それではどうやって見つけたら良いのだろうか? 地元の役所や警察に問い合わせをしてみたけれど、こちらもプライベートは……と断られた。途方に暮れた彼女は、それでもめげずに前に進んだ。

次はサプリの電話帳のマテラッツィという苗字に片っ端から電話をかけた。サプリにはマテラッツィの苗字が多い。すると何件目かでニコラの親戚という人に行き着いた。そこからは話がスムーズに進み、ニコラと直接話すことができ、今回のアポイントとなったそうだ。

どんな人にも公平に接してくれたニコラ

「でももしサプリの電話帳で見つからなかったら?」と問うと、「もちろん、そのときはサプリまで行って調べたわよ」と。母の愛のエネルギーは凄い! 何はともあれ、愛と情熱、信念と強い精神で探し当てたニコラ・マテラッツィの連絡先だ。

ディナーのテーブルではF40の話、フェラーリの話、フィアットの話、と当時の話に花が咲いた。ニコラはピエールのささいな質問にも丁寧に答えていた。「知りたい」人には丁寧に対応してくれるニコラ。どんな人にも公平に接してくれるニコラ。

ただし、フィアットグループの話になると頭から湯気が出始める。35年経った今でもフィアットグループへの怒りは消えないらしい。

でもこの湯気が彼の健康のバロメーターにもなっている、と私は思う。

サプリは海に面した美しい街。ピエールも母もサプリがとても気に入り、10月にはまた家族で遊びに来よう、とスイスに戻っていった。

それから数カ月後の8月24日、残念なことにニコラはこの世を去ってしまった。83歳だった。

ピエールのF40はニコラ逝去の2日後にイベントで賞を受賞

ピエールはちょうどその2日後にスイス・サンモリッツで開催されたレース、「パッシオーネ・エンガディナ(Passione Engadina)」にF40で参加。サンモリッツの美しい風景の中をニコラ・マテラッツィとの思い出のF40(1990年生産)で駆け巡った。開催されたコンクールデレガンスでは「コルポ・ディ・フルミーネ(Colpo di Fulmine)」という賞を受賞。イタリア語Colpo di Fulmineとは日本語で「ひと目惚れ」。まさにピエールの心そのものだ。

1992年生まれのピエール。F40誕生後に生まれた彼にとって夢のクルマF40、その生みの親ニコラ・マテラッツィとサプリで交わしたたくさんの会話や写真、そしてニコラが残してくれたサイン。思い出が詰まった一生の宝物だ。

彼らとの出会いは、信念を持って行動したらいつか必ず夢は叶うことを改めて教えてくれた。ニコラもそんな思いで自分を探してくれた彼らに出会えて嬉しかっただろう。

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  • 野口祐子(NOGUCHI Yuko)
  • 野口祐子(NOGUCHI Yuko)
  • イタリアに渡り、早30年。自動車も人間もモノもヴィンテージの世界にどっぷりハマり、面白そうな話を聞くたびに、アンテナがピクリと動き、日夜「物語」を求めて動き回っています。
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