レースモデルは12台と希少な1台
一方でマセラティのレパルト・コルセ(レース部門)は、ジョルジョ・アスカネッリの指揮のもと、MC12のコンペティション・バージョンを開発、熟成し、スパ24時間レースの連覇を含む数々の国際的勝利を飾った。
1960年代から途絶えたレース界でのトライデントの栄光は、ここに完全な復活を遂げたのである。そして世界の裕福なカスタマーからは究極のアドレナリン体験を求めるために、コンペティションモデルのそれに近いMC12のハイスペックモデルを望む声が続々とマセラティのもとに届くようになる。
結果マセラティは厳選された12人のカスタマーのためだけに、レースでのレギュレーションに制約されない、すなわちレース仕様よりもハイパフォーマンスなサーキット走行専用モデル、「ベルジオーネ・コルセ」を2006年のボローニャ・ショーで正式に発表したのである。
その心臓たるV型12気筒エンジンは、基本的なスペックこそ不変であるものの、吸気制限によってレース仕様が600psにまで最高出力を抑え込まれていたのに対して、このベルジオーネ・コルセでは745psを発揮。軽量化もさらに徹底され1150kgという車重は、先に50台が販売されたロードモデルのMC12よりも200kg近く軽い数字となる。0‐200km/hは6.4秒を記録。そのパフォーマンスはまさに衝撃的なものであったといってもよいだろう。
今回RMサザビーズのパリ・オークションに出品された、MC12・ベルジオーネ・コルセは、ドイツのオーナーにデリバリーされた8号車。マセラティを始め、フェラーリのコレクターでもある彼はすでにフェラーリFXXを所有していたというから、新たにサーキット走行用としてこのMC12ベルジオーネ・コルセを加えたことになる。
所有中にこのオーナーは、モデナの元マセラティ・コルセのメカニックが経営するガレージで、エンジンのリビルト等の作業を行い、通常のメンテナンスはデンマークのマセラティ・スペシャリスト、フォーミュラ・オートモービルがそれを担当していたという。マセラティによるとエンジンはマッチングナンバーのまま、オレンジのカラーリングやブラックのスパルコ製バケットシートを備えるインテリアも新車時の仕様から変化はない。
280万~350万ユーロ(邦貨換算約4億4800万円~5億6000万円)という予想落札価格は、オークション前から大きな話題だったが、やはりそのサーキット走行車としてのパフォーマンスと、わずかに12台という希少性は入札者には魅力的なものに思われたようだ。最終的な落札価格は304万2500ユーロ(同4億8680万円)と、こちらも驚きの結果となった。