インテリアの設えから走りに至るまで、すべてが上質
今回の「旧車ソムリエ」取材のため、神奈川の「ヴィンテージ湘南」からお借りしたのは、W108系としては最終期にあたる1971年型の「280SEL」。同年に当時のメルセデス・ベンツ輸入代理店「ウエスタン自動車」が輸入し、同社の親会社である「ヤナセ」のネットワークで販売された正規輸入車とのことである。
メルセデス「Sクラス」の源流にあるモデルで、現行W223系Sクラスでいえば「S 500 ロング」や「S 450 d ロング」あたりに相当するグレード。欧米ではオーナードライバー向けのモデルながら、新車時代の日本では法人名義のショーファードリブン用途が多く、この個体もそういった用途に使用されていたと思われる。
この日、初対面した280SEL。全長はきっかり5mという堂々たる体躯ながら、昨今ではEセグメントでももっと大きなボディサイズのクルマは珍しくもなくなっているせいか、意外なほどコンパクトにも映る。この威圧感のなさに少しだけ安心しつつ、組み付け精度の高さを印象づけるドアを開いてキャビンに収まると、まず目につくのは、控えめながら豪華なフィニッシュ。ダッシュボード上のフェイシア前縁から前後サイドウインドウの周辺に至るまで、高い工作精度で削り出された無垢材のウッドパネルが貼り巡らされているのだ。
たとえば、同時代のロールス・ロイスやジャガーなどに比べてしまうと若干地味な仕立てと色合いながら、精度の高い工芸品のようなつくり込みには圧倒させられてしまう。また、サラッとした手触りのファブリック張りシートは、座面/背面とも「バンッ」と張った硬い感触。でも、体重を全面で巧みに受け止め、長距離でも疲れは最小限に抑えられるであろうことが即座にわかる。
そしてイグニッションキーを回すと、燃料噴射の恩恵かエンジンは一発で始動。操作にはちょっとだけコツを要するコラム式のATセレクターをDレンジまで降ろし、デフォルトどおり2速発進する。
この時代のメルセデスを特徴づけていた遊星ギア式のオートマティック変速機は、Dレンジに入れる、あるいはリバースに入れる際にもひと呼吸おいて反応する。したがって、発進時にも交代時にも「コンッ」とエンゲージするまで待たねばならないが、走り出してしまえばシフトショックもほぼ皆無。古き良き時代のメルセデスらしい重いアクセルペダルのせいか、直列6気筒エンジンの吹け上がりもかなり重々しいのだが、それはスムーズさと静粛性の高さによって、クラシック・メルセデス独特の上質感へと昇華されてしまう。



















































