メルセデスの古典様式美は、最上のビジネスマンズエクスプレスとして昇華する
こうして280SELをしばらく走らせていると分かってくるのは、フロアからモノコックに至るまで全身ガッチリとしていること。一般には「剛性感」という言葉さえ知られていなかった時代のクルマながら、アスファルトの荒れた路面を走っても、インテリアの立て付けから「ミシリ」ともいわない。
そして、40cmははるかに超えていそうな巨大なステアリングホイールを下から捧げ持ち、ソフトながら腰のある乗り心地を味わっていると、この時代におけるメルセデスの様式美というものが、いくばくかでも見えてくる。
ステアリングには左右合わせて拳ひとつぶんくらいの「遊び」はあるものの、そこから先はきわめて正確。パワーステアリングも軽すぎず、油圧ポンプの動きに引っかかりもない。またボール循環式の特質としてキックバックはほぼ皆無ながら、それでも路面のフィールはたしかに伝えてくる。
もちろん強めのアンダーステアは発生するし、速度超過でコーナーに飛び込めばスイングアクスルの悪癖としてテールがブレークしてしまう可能性も高い。それでも、常識的なスピードで走っている限りは、すべてをコントロール下におけそうな安心感は、この時代の高級サルーンとしては望外のものだったに違いない。
圧倒的なスタビリティに、粘り強くてトルクフル、しかもスムーズで静かなストレート6エンジンも相まって、華美なところはどこにもないのに、最上のビジネスマンズエクスプレスとなり得ていたのだ。
1960年代〜1970年代初頭の日本で、このクルマを自ら運転していたオーナードライバーたちはもちろん、雇い主からステアリングを委ねられた半世紀前のショーファーたちも、きっと誇らしかったことだろう。
ちなみに今回の試乗車両は、ボディこそペイント補修歴がある可能性が高いそうだが、インテリアは新車時代からのオリジナルを保持しているとのこと。それでも、内外装ともに大切に磨き込まれた試乗車両の現状を見ると、この280SELがオーナーにもショーファーにとっても特別な存在であったことが窺い知れるのである。
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