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「Sクラス」の始祖メルセデス・ベンツ「280SEL」に試乗! ドライバーズカーとしても優秀な古典的様式美の世界とは【旧車ソムリエ】

「Sクラス」の始祖メルセデス・ベンツ「280SEL」に試乗! ドライバーズカーとしても優秀な古典的様式美の世界とは【旧車ソムリエ】

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 神村 聖(KAMIMURA Satoshi)

メルセデスの古典様式美は、最上のビジネスマンズエクスプレスとして昇華する

こうして280SELをしばらく走らせていると分かってくるのは、フロアからモノコックに至るまで全身ガッチリとしていること。一般には「剛性感」という言葉さえ知られていなかった時代のクルマながら、アスファルトの荒れた路面を走っても、インテリアの立て付けから「ミシリ」ともいわない。

そして、40cmははるかに超えていそうな巨大なステアリングホイールを下から捧げ持ち、ソフトながら腰のある乗り心地を味わっていると、この時代におけるメルセデスの様式美というものが、いくばくかでも見えてくる。

ステアリングには左右合わせて拳ひとつぶんくらいの「遊び」はあるものの、そこから先はきわめて正確。パワーステアリングも軽すぎず、油圧ポンプの動きに引っかかりもない。またボール循環式の特質としてキックバックはほぼ皆無ながら、それでも路面のフィールはたしかに伝えてくる。

もちろん強めのアンダーステアは発生するし、速度超過でコーナーに飛び込めばスイングアクスルの悪癖としてテールがブレークしてしまう可能性も高い。それでも、常識的なスピードで走っている限りは、すべてをコントロール下におけそうな安心感は、この時代の高級サルーンとしては望外のものだったに違いない。

圧倒的なスタビリティに、粘り強くてトルクフル、しかもスムーズで静かなストレート6エンジンも相まって、華美なところはどこにもないのに、最上のビジネスマンズエクスプレスとなり得ていたのだ。

1960年代〜1970年代初頭の日本で、このクルマを自ら運転していたオーナードライバーたちはもちろん、雇い主からステアリングを委ねられた半世紀前のショーファーたちも、きっと誇らしかったことだろう。

ちなみに今回の試乗車両は、ボディこそペイント補修歴がある可能性が高いそうだが、インテリアは新車時代からのオリジナルを保持しているとのこと。それでも、内外装ともに大切に磨き込まれた試乗車両の現状を見ると、この280SELがオーナーにもショーファーにとっても特別な存在であったことが窺い知れるのである。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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