BMIHTお墨つきのレストアが施された魅力的な1台ながら……
このほどボナムズ「Scottsdale 2025」オークションに出品された1960年式オースティン・ヒーレー スプライトMk-Iは、「コンクールクオリティ」基準で仕上げられた美しいレストアの恩恵を受け、「オールド・イングリッシュ・ホワイト」のボディカラーとともに新車として作られた時と同様に仕上げられている。
1960年7月、アビンドン工場で完成したこの小さなロードスターは、大方のスプライトと同じくアメリカ向けの左ハンドル仕様で、スパルタンで小さなランナバウトにとって理想的な気候である、陽光燦燦のカリフォルニア州ロサンゼルスへと出荷された。
この小さな「Bug Eye」は徹底的なレストアを施され、往年の英国車各ブランドの正統性を認証する「BMIHT(British Motor Industry Heritage Trust)ヘリテージ・サーティフィケイト」証明書に準拠した、新車時のオリジナルに限りなく近い仕様に戻されている。
オールド・イングリッシュ・ホワイトのペイントは全身くまなく魅力的で、ボンネットの内部やボディの下側も同様に白く塗られている。また、BMIHT証明書に明記されているとおり、シルバー塗装のスチール製ディスクホイールにホワイトウォールタイヤが装着されている。
さらに追加オプションには、ヒーターやラミネート入り合わせガラスのウインドスクリーン、ウインドスクリーンウォッシャー、フロントバンパーなども含まれている。
スプライトの魅力は、楽しむというスポーツカー生来の目的にとって余計なものがほとんどない、素朴なシンプルさにある。ちょっと狭いコクピットには、ブラックにホワイトのパイピングが施されたバケットシート、ブラックのラバーとビニールのフロアライニングが装備されている。これは、カーペットのような豪華さは必要ないとする、企画当時のスタイルが順守されている証でもある。
そしてクラムシェル式の重いボンネットカウルを開けると、BMCグリーンで仕上げられたマッチングナンバーのエンジンが現れ、純正スタイルのハードウェアとフィッティングでディテールアップされている。
強気なエスティメートはリザーヴなしで出品
オークションの公式カタログ内では、
「この魅力的なオースティン・ヒーレー スプライトMk-Iは、象徴的で愛すべき小さなブリティッシュ・スポーツカーの、印象的なディテールアップとレストアを施された1台」
と謳いあげたボナムズ社は、2万5000ドル~3万5000ドル(邦貨換算約387万円〜約542万円)という、このモデルとしてはかなり強気ともいえそうなエスティメート(推定落札価格)を設定。その上で「Offered Without Reserve」、つまり最低落札価格は設定しなかった。
この「リザーヴなし」という出品スタイルは、いかなる価格であっても確実に落札されることから会場の空気が盛り上がり、エスティメートを超える勢いでビッド(入札)が進むこともある。しかしそのいっぽうで、たとえ出品者の意にそぐわない安値であっても落札されてしまうリスクもつきまとう、二律背反的なものとされる。
こと今回のオークションに関しては、彼らの強気な姿勢は裏目に出てしまったようで、この日の競売が終わってみれば1万9000ドル、現在のレートで日本円に換算すれば約290万円で落札されることになったのだ。
ちなみに、日本にもクラシックカーとしてかなりの数の「カニ目」が輸入されているはずだが、わが国の英国車スペシャルショップでこのモデルを探す際の目安の価格も、300万円から400万円くらいが大多数を占める。
くわえて、パーツの供給体制も非常にしっかりとしており、リーズナブルな相場価格も相まって、今なおクラシックスポーツカー入門編としての魅力は薄れていないと思われるのだ。




























