量産にこぎつけたシトロエン
一方、カーター同様市販化されて、しかも量産に漕ぎつけたツインエンジンモデルがある。それがシトロエン 2CVサハラである。元々はフランスの農夫が朝取れ卵を割ることなく運べるクルマというコンセプト(だったかどうか)で誕生したモデルだった。フランスの植民地であった北アフリカの農夫は、より状況の悪い砂漠地帯で使えることを望み、その結果誕生したのがリアにも同じエンジンを搭載したサハラであった。
サハラはカーター同様、エンジンをひとつだけ、あるいは両方動かす機構を持ち、それによってリアの駆動力とパワーの必要ない時は、フロントエンジンだけを駆動した経済的に走れる機構を持っていた。サハラは700台ほどが生産されたそうだが、それでもたったの700台(正確には694台という説がある)で終わった。片方だけでエンジンを駆動できるという機能があるため、カーター同様に万一ひとつのエンジンが壊れても、もうひとつを動かすことで立ち往生を心配することがないことも売りだった。
このサハラは日本にも生息し、その1台は実動である。(もう1台の存在も知っているが、そちらは動くかどうか不明だ)。その694台と言われる生産台数のうち、今も生き残っているモデルは100台程度と言われ、自走するクルマはさらに少なくなるから、世界的にも貴重なモデルである。
メルセデス・ベンツが作ったモンスターツインエンジン車とは?
ツインエンジンは、カーター以外はほぼすべてエンジンを前後に搭載した4輪駆動である。そしてやはり市販に至らなかったモデルとして存在するのが、メルセデス・ベンツ AクラスベースのA38と呼ばれるモデルだ。こちらは初代Aクラスをベースにしたモデルなのだが、Aクラスと言えば初期にいわゆるエルクテストで転倒する事故に見舞われ、その結果サスペンションを見直し、スタビリティコントロールを標準装備とした。
おそらくこの事故とメルセデスの標準装着をきっかけに、スタビリティコントロールが一般化したと考えれば、その功績はあったと言える。
ただ、やはり転倒事故はネガティブな印象をAクラスに植え付けてしまったことは、間違いない。そこで、メルセデス・ベンツとしてはこのクルマが安全かつ高性能であることをPRする必要があった。そしてこんなこともできますという、ある種のプロパガンダとして製作されたのが、A38 AMGであった。
オリジナルの変則的な搭載方法を持つ横置き1.9L直4ユニットを、リアにも搭載したモンスターモデルである。しかも両エンジンにそれぞれ独立したトランスミッションも装備していた。通常はフロントエンジンのみで走行し、ダッシュボード上のスイッチを操作することで、リアエンジンが駆動する。前後のギアボックスは同じシフターに接続されているから、シフターはひとつである。高性能に対応するために、ブレーキは当時のEクラス、それもE55 AMG用が装備されていた。
作っては見たものの、やはりカーター同様に高価になると考えたのか、実際には4台(と言われる)を生産したのみで、市販化には至らなかった。そしてこのうち1台は、当時のメルセデスF1ドライバーである、ミカ・ハッキネンにプレゼントされた。
やはり前後エンジンの制御や重量増、それに燃費などが市販化には足かせになる。また、レーシングカーでもアルファ ロメオはタイヤで苦しんだようだ。4WDはシングルエンジンで十分に一般化できるから、その必要はないし、万一ひとつのエンジンが壊れる……ケースは今では考えにくいから、今後ツインエンジン車が生まれる可能性は、カスタムカーの世界だけだろう。







































