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「ディーノ206GT」がまさかの1億円切り!約9500万円とリーズナブルな価格で落札された理由とは

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 2025 Courtesy of RM Sotheby's

総額8万ドルのレストア作業を施すもフェラーリ・クラシケの記述がない

RMサザビーズ「Monterey 2025」オークションに出品されたこの1969年式ディーノ206GTのシャシーNo.00332は、206GTとしての生産終了間際に完成した車両である。1967年から1969年までのわずか3年足らずの生産期間に製造された153台(ほかに150台、152台説など諸説あり)のうち、115台目に当たるとのことだ。

マラネッロ工場からの出荷時には、のちにロッソ・ディーノとも呼ばれる「ロッソ・キアーロ」なるオレンジ色で仕上げられた。当初はイタリア・ナポリ在住のジュゼッペ・チンクエグラーナ氏に納車されたものの、わずか1年後にはローマに在住するセカンドオーナーに売却された。

その後もイタリア国内で複数のオーナーのもとを渡り歩いたが、1982年にはカナダへと輸出された。そして2016年に購入した人物によって米国へ輸入され、現在まで合衆国内に生息している。

車両とともに保管されている請求書と部品注文書から判明しているとおり、この206GTは2025年4月に完了したエクステリアおよびメカニカルパートのレストア作業を受けている。この際、内装もベージュの純正スペックのレザーで張り替えられた。また、燃料システムやブレーキシステムの整備、ホイールの再塗装など、そのほかのさまざまな問題にも対処された。総額8万ドル以上を投じて外観・機械的な状態を適切に復元した、とRMサザビーズ社の公式カタログには記されている。

しかし、エンドマフラーが206GTの特徴である細い4本出しから、同じ4本出しでも246GT用と思しき、断面を斜めにカットした太いものとされているなど、オリジナル性の面でいささか疑問が感じられる。これはあくまで筆者が写真から判断した見立てである。

くわえて、現在のクラシック・フェラーリでは常套となっている「フェラーリ・クラシケ」の正統性承認を受け、同部門の「レッドブック」を発行されていた場合、必ずカタログにもその事実を誇示するはずだ。しかし、このオークション出品に際してRMサザビーズ北米本社は、少なくとも公式カタログ内ではそのような記述を一切行っていない。

そして、この点について売り手サイドにも思うところがあったのだろうか。公式カタログ内では

「史上もっとも崇高なフェラーリ・ロードカーのひとつであるディーノは、ライトウェイトスポーツカーの性能と美しいデザインを兼ね備えています。なかでもシャシーNo.00332は機械的・外観的な修復を施された状態で、206GT生産最終年の傑出した1台」

と麗々しくアピールしながらも、60万ドルから80万ドル(邦貨換算約8800万円〜1億1840万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定していた。この価格は、ここ数年のアメリカにおける同モデルの相場価格からすると、比較的低めとも受け取れる。

かくして迎えた8月16日のオークション当日。モントレー市内の大型コンベンションセンターと隣接するホテルにも会場を広げて挙行された対面型競売では、エスティメート下限を超える64万8500ドルで落札された。現在の為替レートで日本円に換算すれば約9540万円となる。このところ1億円オーバーが当たり前のようになっているディーノ206GTとしてはかなりリーズナブルな価格で、壇上の競売人のハンマーが鳴らされることとなった。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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