渋々引き取った昭和40年製の軽トラが、今も旧車好きオーナーと毎日走り続けている理由…
広島県在住の旧車好き・玉井秀昭さんが”押し売り”同然で手に入れたのは、スズキの4輪軽トラック「スズライトキャリイ」です。1965年生まれの昭和レトロな名車は、最高出力わずか21馬力ながら、今も雨の日以外は毎日現役で走り続けています。速さでも快適さでもない、旧車だけが持つ価値観の楽しみがここにあります。
地元で有名な旧車好きに、押し売り同然から始まったスズキ「スズライトキャリイ」とのストーリー
広島県在住の玉井秀昭さんは、地元で有名な旧車好きだ。そのため、よく「あんたは旧車好きだからこれを買ってくれ」と、処分するクルマの相談をされる機会が多いという。
今回紹介するスズキ「スズライトキャリイ」も、そうした流れから購入した1台だ。ほぼ押し売りのような状況で、積載車で現車を自宅前に下ろして買ってくれと言われた。さすがに古くてボロい上に、値段を吹っかけてきたため購入を断った。しかし「もう積載車には積み込めない」と言われ、自分が出せる金額まで交渉した上で購入することになった。本当は買うつもりはなかったが、仕方なくコレクションの1台に加えることにしたクルマだった。
高度成長とともにスズキ「スズライト」から独立し商用車スズキ「キャリイ」へと切り替わる、軽トラ誕生を支えた始祖
このクルマを説明するには、1950年代まで時代を遡る必要がある。1955年、スズキは初の軽自動車「スズライト」を世に送り出した。手頃な価格の乗用車として普及し、スズキが軽自動車メーカーとして大きく成長するための基盤を築いた1台だ。その登場から約10年間、さまざまなユーザーニーズに応えながら派生モデルを数多くリリースし、日本のモータリゼーション(マイカー普及)にも大きな影響を与えた。
そのスズライトの商用モデルとして、荷物の積載・運搬機能に特化して開発されたのが「スズライトキャリイ」だ。当時の日本が高度成長へと進む中、生活必需品の運送や農作業のために不可欠だった軽トラックは、3輪から4輪へと移行しつつあった。そうした時代の要請に応える形で、1961年(昭和36年)に初代(FB型)が誕生した。
玉井さんが所有するのは、その初代の大成功を受けて1965年(昭和40年)にフルモデルチェンジされた2代目「スズライトキャリイ(L20型)」だ。初代のセミキャブオーバースタイルを継承しながら、荷台面積を1.66㎡に拡大。ウィッシュボーン式の前輪独立サスペンションを採用して乗り心地と操縦安定性を高めるなど、完成度をさらに磨き上げた1台である。現在も脈々と受け継がれるキャリイトラックの礎を築いた、まさに軽トラック史に刻まれる名車だ。
いまのクルマが持っている速さや快適装備もないが、旧車にしかない価値観で楽しむ軽トラライフ
かなりのボロ状態だったが、玉井さんは自分の愛車になったからには再び公道を走らせてあげたいと、愛情を注ぎながら各部のオーバーホールとメンテナンスを施した。サスペンション、駆動系、エンジンも含めて徹底的に整備したが、エンジンパワーだけはどうにもならなかった。カタログスペックでは最高出力21馬力とあるものの、車体重量の関係で実際の走りは原付バイク以下の遅さだ。坂道に差し掛かるたびにドキドキするという。
このスズライトキャリイは、基本的にはオリジナルを保ちつつ、一部に当時の雰囲気を残しながらシートやダッシュボード、ステアリングやフロアなどをリフレッシュした。しかし「自分が乗るならそのままでは面白くない」と、玉井さんはタイヤを少し太くするためにホイールを加工して装着。さらに、バイクメーカーとして有名なキジマ製のチェッカー柄二輪用フェンダーフラップ(泥除け)を飾りとして取り付け、ミラーをミニクーパー用に交換し、ヘッドライトをマーシャル製に変えるなど個性的なアレンジを楽しんでいる。

中でも特にユニークなのが、荷台のアオリ(荷台の囲い板)まわりのアレンジだ。昭和感あるフォントで「スズライト」と記したロゴプレートを配し、最大積載量の表示は「0.35豚」(350kg)とユーモアたっぷりに書き換えた。バイク用品メーカー「BEET」のステッカーを「BEEF」に変えるなど、わかる人にはちゃんと伝わるネタが随所に仕込まれている。
さまざまな旧車を所有している玉井さんだが、雨の日以外はほぼ毎日乗り回すほど、今ではスズライトキャリイがすっかりお気に入りになってしまった。速さでも快適さでもない、価値観の楽しみ方が旧車の世界にはある。玉井さんはその価値観こそがこのクルマの最大の魅力だと目を細めながら話してくれた。



















































