知られざる『サイドカーレース』の世界③ ドライバーとパッセンジャーとの二人三脚こそが速さの決め手!?
前回は冨本至高さんの愛車「KUMANO LCR GSX-R1000」のメカニズムを詳しくお伝えしました。今回はいよいよ、クルマともバイクとも異なる異形3輪マシンを「速く走らせるテクニック」に迫ります。ドライバーとパッセンジャーの二人三脚なしには、レーシングスピードでの走行は不可能です。その奥深い理由を冨本さんに詳しく解説していただきました。
左右非対称な構造ゆえ加減速時や旋回時に独特な慣性力が働くサイドカーだから、走行時が一番不安定!?
レース専用モデルであれ、公道を走行できるナンバー付き車両であれ、サイドカーは左右が非対称で、重心も前輪と後輪を結ぶ線よりも側輪側にわずかにズレている。そのためパッセンジャーの重量によって慣性力が発生する。加速時には側車が遅れてついてくるため左へ向こうとし、減速時には側車が進もうとして右方向へ向かう力が生じる特性を持っているのだ。クルマなら左右の重量バランスが多少ズレていても、加速時や減速時に横方向への慣性を大きく感じることはない。
またサイドカーとバイクのコーナリングが大きく異なる点は、バイクが車体を傾けることで旋回スピードを稼ぐのに対して、サイドカーは車体を傾けられずステアリングの舵角に依存する点だ。つまり停車時は安定しており『立ちゴケ』もあり得ないが、動き出すと一転して不安定になるのがサイドカーだ。冨本さんによると、公道のサイドカーに初めて乗った人が曲がることができず、正面に激突するようなクラッシュも珍しくないそうだ。
レーシングサイドカーは「ニーラー」姿勢で体を固定、バイクに近い操作系で荷重移動を駆使して走行するのがカギ!
ドライバーは初回の記事で解説したとおり、膝を折り曲げた『ニーラー』と呼ばれる姿勢を取り、カウルに収まりウレタンなどで身体との隙間を埋め、バケットシートのように腰や肘や背中をホールドする。足首から先は脛の部分で支えて浮いた状態で、両腕を前に伸ばしてステアリングを握るのが基本だ。
ステアリングの作りはバイクと同じく右がスロットルだが、ほとんどのレーシングサイドカーにブレーキレバーはない。左にはクラッチレバーが装着されており、バイクの経験者ならさほど違和感はないはずだ。
ペダルは日本国内では基本的に右側がブレーキとなるが、ヨーロッパでは左側がブレーキペダルの車両が多い。理由は英国では伝統的に左ブレーキのバイクが多かったことと、ほかの車両やガードレールなどに接触した際、内側になる左にあるほうが破損のリスクを減らせるためだ。いま日本で走っている車両は、バイクからの転向者が馴染みやすい右ブレーキが採用されている。左足ではバイクと同様にシフト操作を行う。
ライダーの走らせ方はクルマと似ており、コーナー手前で確実に減速を行い、姿勢の変化を最小限に抑えて荷重移動によって向きを変えていくのがセオリーだ。
ライダーとの信頼関係でマシン性能を最大限に引き出すパッセンジャーは、荷重最適化の「動くウエイト」!
いっぽうパッセンジャーの役割は「動くウエイト」だ。自由自在に姿勢や位置を変えることで荷重を調整し、加速・減速・コーナリングのそれぞれを補助する。仮にマシンが停止した状態での前後の荷重バランスを5:5とすれば、加速するとリアの荷重が大きくなり、減速ではフロント荷重が大きくなる。パッセンジャーは自分自身が移動することで、マシンにとって常に最適な荷重の状態を作り出す。
もともとのバランスがよくないサイドカーだけに、パッセンジャーの存在は重要だ。ライダーひとりでレーシングスピードで走ることは、とてもではないが不可能である。右コーナーではライダー側のカウルに体を預け、左コーナーでは側車が浮き上がるのを抑制するため、身体を大きく外側へ突き出すことで荷重をかける。またコーナー立ち上がりでは駆動するリアタイヤに荷重をかけ、トラクションを稼ぐため側車の後端へ移動するのがセオリーだ。

アクロバティックな動きを見ると身体的な能力が重要と思いがちだが、コーナーの大きさとスピードや路面状況から最適なポジションを導き出す判断力、ライダーのハンドル操作などのタイミングを見極める注意力も必要だ。さらにライダーはパッセンジャーの疲労度を注視し、ライディングを微調整する能力まで求められる。レーシングサイドカーを速くかつ安全に走らせるには、ライダーとパッセンジャーが互いの能力を熟知し、強い信頼関係がなければ不可能といえるだろう。
レーシングサイドカーの操作についてさらに詳しく知りたい人には、イラスト付きで分かりやすく解説された冨本さんの小冊子の購読をおすすめしたい。冨本さんが執筆した小冊子などでも詳しく解説されている。
次回は国内で見られるサイドカーのレースと、今シーズンのスケジュールを詳しく紹介する。軽自動車による参加型モータースポーツ、東北660シリーズとのコラボレーションも予定されているという!
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