憧れの名車が驚きのリーズナブルな価格で落札
英国最大級の見本市会場であるバーミンガムの「NEC」では、英国のクラシックカー専門誌主催のトレードショー「The Classic Car and Restoration Show」が毎年開催されています。2026年3月下旬に行われた同イベント内のオフィシャルオークションに、WRCで伝説的な強さを誇ったランチア「デルタHFインテグラーレ8V」が出品されました。大規模な整備が施された極上車の落札結果と、その魅力に迫ります。
WRC6連覇の偉業を支えたグループAホモロゲーションモデル
1973年のWRC(世界ラリー選手権)創設から1992年末の撤退に至るまでの20年間にわたり、イタリアの名門であるランチアはラリーシーンにおいて圧倒的な強さを示していた。その実績は今もなお、10回ものWRC年間タイトル獲得(うち1987年から1992年までの6連覇を含む)という記録とともに、もっとも成功したコンストラクターとしての地位を確立している。そして後半の歴史的成功は、1979年に発売されたシンプルなファミリーハッチバックであるランチア「デルタ」に支えられていた。
グループA時代の端緒であるランチア「デルタHF4WD」は、もともと豪奢なFF小型ハッチバック車であるデルタをベースとし、フルタイム4WDのドライブトレーンに上級モデルであるランチア「テーマ ターボ」譲りの高出力パワーユニットを搭載した、グループAホモロゲーション用スーパーモデルだ。
フロントに横置きされる直列4気筒DOHCターボエンジンは、ロードバージョンでも165psを発生し、トルセンデフを採用したリアデファレンシャルを介して後輪にもパワーを伝達する4WDとした。
WRC制覇という大義のため開発を主導したのは、グループB時代のアバルト「037ラリー」やランチア「デルタS4」と同じくアバルトの技術陣である。有名なアバルトの社内コード「SE」ナンバーでは「SE043」が授けられた。開発に着手したのは1986年6月とされており、彼らはこの歴史的傑作車をわずか半年間で開発したことになる。
量産計画に若干の遅れはあったものの、FIAが規定する5000台が生産されたデルタHF4WDは、グループAホモロゲーションを獲得した1987年シーズン開幕戦のモンテカルロ ラリーでは、堂々のデビューウィンを果たす。
そしてこのシーズンのWRCメイクスタイトルを獲得したのち、同じ1987年秋のトリノ ショーでは、前後フェンダーをブリスター化してトレッドの拡幅を行うとともに、エンジンも185psに強化した「インテグラーレ」が登場した。翌1988年シーズン中途からWRCに実戦投入され、前シーズンと同様に圧倒的な強さを見せつけつつワールドタイトルを連覇した。こののちランチアは、デルタHFとその改良版たちとともに、6年連続のWRCチャンピオンシップを積み重ねることになる。
大規模なオーバーホールを施しながらも手頃なエスティメート
さきごろアイコニック オークショネア社が主催するオークションに出品されたデルタHFインテグラーレ8Vについて、同社の公式カタログでは新車としてのラインオフから英国に至るまでの来歴については触れられていなかった。
ただ、「ネロ メタリッツァート」のボディに、グレーのアルカンターラとミッソーニ社製ニット生地のコンビインテリアを組み合わせたこの左ハンドル仕様車は、角ばった力強いブリスターフェンダーに代表されるボディワークや、新車当時のスペックに忠実なディテール、純正アロイホイールなど、初期の8バルブモデルを象徴するインテグラーレ特有のスタイルを見事に体現している。
1988年後半に製造され、1989年2月22日にイギリス国内で初登録されたこの個体は、オークション公式カタログ作成時点で走行距離計は16万9700kmを示しており、2026年7月まで有効で注意喚起事項のない英国MOT車検を取得している。
昨年には大規模なオーバーホール作業を実施した。これには新品のフィルター類(オイル、燃料、エア)と燃料ポンプおよび燃料圧力レギュレーターの換装にくわえ、カムタイミングベルトおよびバランスベルト、テンショナーのアイドラーベアリング、ウォーターポンプ、補器類用ベルトの交換が含まれる。
また、オルタネーターのリビルドやクーラントの洗浄および交換も実施済みで、バッテリーアイドルコントロールバルブやエアインテークホースを新品に交換し、さらに日本製のトーヨータイヤも新調されている。
このデルタHFインテグラーレの出品にあたり、アイコニック オークショネア社では「インテグラーレファンへの手頃な入門モデルとして、適正な価格設定で提供しております。NECでの実車確認をぜひお勧めいたします」と公式カタログ内で謳い、会場への来場を募っていた。そして1万2000ポンド〜1万6000ポンドという、ここ数年の英国におけるインテグラーレ8Vの販売実績からすると、かなり安価なエスティメート(推定落札価格)を設定したのである。
エスティメート内に収まるリーズナブルな価格での落札劇
このリーズナブルな価格設定が功を奏したのか、バーミンガムNECで行われた競売ではビッド(入札)が順調に進み、終わってみればエスティメート範囲内に収まる1万3500英ポンド、現在のレートで日本円に換算すれば約289万円でハンマーが振り下ろされた。
つまりは、時おり売りものが出てくる日本国内マーケットでの相場よりもやや低めである。英国マーケットにおける相場より明らかに安価となったわけだが、もとよりエスティメートの段階からリーズナブルだったのは間違いない。
左ハンドル仕様車であることが英国市場では不利となった可能性も否めないものの、写真を見る限りでは、この時代のアルカンターラにつきものだった表皮の擦れや毛玉もマイレージのわりには少なめだ。外装やエンジンルームも比較的きれいである。少し気になるのは内外装の綺麗さに比べると下回りの汚れの酷さだが、それでも落札者にとってはいい買い物になったに違いない。
※為替レートは1英ポンド=214.16円(2026年5月6日時点)で換算

















































































































