波瀾万丈の歴史を刻んだヤングタイマーの傑作が極上コンディションでオークションに登場
ここ1〜2年で国際的なオークションマーケットの趨勢は大きく変容し、1980年代から90年代に生産された「ヤングタイマー クラシック」が主流となり始めています。そんななか、英国のイベント公式オークションに、ヤングタイマーのなかでも格段の人気を誇る名車が登場しました。徹底的なレストアが施され、新車時以上の輝きを放つ極上の個体が叩き出した驚きの落札価格と、その魅力に迫ります。
悲運の天才実業家が夢見た理想のスポーツカー
世界的大ヒットを博した映画「バック トゥ ザ フューチャー」シリーズでタイムマシンとして出演したことから、現在では1980年代カルチャーのシンボル的存在ともなっているデロリアン。その波乱万丈のストーリーは、ある悲運の経営者の夢からスタートした。
かつて北米GM本社でポンティアック部門担当の副社長まで上り詰め、元祖マッスルカーとも呼ばれる傑作車であるポンティアック「GTO」を生み出したことでも知られるジョン ザッカリー デロリアンが、自身の理想のクルマを作るためにGMを辞職。1975年10月にデロリアン モーター カンパニー(DMC)を起こしたのだ。
アメリカのモータウンであるミシガン州デトロイトに本社を構えたデロリアンだが、彼が創ろうとしたのは、それまでビッグ3が生産してきた恐竜のごときアメリカ車たちとは一線を画した本格的GTカーであった。そこで優秀なエンジニアリング部門を持ち、スポーツカーでも確固たる実績を挙げている英ロータス社に開発を依頼した。
ところが、生産拠点の確定に手間どったことにくわえて車両の開発も難航。初の生産車であるデロリアン「DMC-12」のデビューは1981年まで待つことになった。
ようやく姿を現したデロリアン DMC-12は、ロータス式のバックボーンフレーム後端に、プジョー、ルノー、ボルボの共同開発によるバンク角90度V型6気筒SOHC・2.85リッターの「PRV」ユニットを搭載した。これにイタリアのイタルデザイン社を率いるジョルジェット ジウジアーロがデザインワークを手掛けたクーペボディを組み合わせている。この低いボディはガルウィング式ドアとともに、無塗装のステンレス製アウターパネルを特徴としていた。
最高速度はメーカー公表値で209km/hとされていたが、車内の速度メーターが示す上限は85マイル(約137km/h)にとどまっていた。これは当時のアメリカの道路交通法規による制限によるものだ。ちなみに映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」では、88マイル(約141km/h)まで加速した瞬間にタイムスリップが起きるという設定になっており、この数字はスピードメーターの上限をわずかに超えた領域にある。

イギリスの北アイルランド、ベルファスト郊外に新たに建設した巨大プラントを生産拠点としたことから、会社の登記上の国籍はアメリカ合衆国ながら、開発と生産は英国。デザインはイタリアという、きわめて国際的なメーカーとなった。デロリアンはその後もPRVユニットのターボ化や4ドアセダン版などの新展開も続々と発表し、その前途は洋々であるかに見えた。
ところが、DMC-12のクオリティ問題に端を発する売り上げの激減や、北アイルランドへの工場誘致の条件として交付されていた英国政府の補助金が停止されたことで、翌1982年には経営状況が一気に悪化する。さらにジョン デロリアン自身もコカイン取引の嫌疑を懸けられて(のちに無罪の判決が下る)失脚したことから、わずか8538台のDMC-12を製作した段階で、デロリアンの夢のプロジェクトは崩壊してしまったのである。
徹底したレストアで蘇ったタイムマシンの輝き
アイコニック オークショネア社いわく、デロリアン DMC-12は「20世紀を代表する数少ないスター的自動車のひとつ」である。そして今世紀以降は、世界中に熱心な愛好家を持つ大人気モデルとなった。さきごろ同社主催のオークションに出品されたのは、大西洋を渡って英国に上陸した並行輸入車である。今回のオークション出品者でもある現オーナーは、この車両の正確な仕様を探し求める徹底的な調査の末、英国に輸入して以来、唯一の所有者となった。
アメリカ合衆国イリノイ州クリスタルレイクのスペシャルショップであるデロリアン ミッドウェスト社から、走行距離3万8310マイルの時点で購入され、現在でも過去の米国所有権証明書および購入請求書が残されている。
そして2023年に英国へと到着するや否や、エセックスにある著名なデロリアン専門ファクトリーのP J グラーディ社に移送され、全面的なレストアが施されることになった。欧州ではすでに定評を得ている同社はオーナーの期待に応え、圧巻ともいうべきレベルにまで仕上げた。
とくにリアエンドのエンジンルームは、格別の仕上がりを見せている。また、鈍い銀色のステンレス製ボディワークとのコントラストを際立たせるため、標準指定のグレーレザーよりも好まれるブラックレザーのインテリアに張り替えている。
もちろん機関部についても手が入れられており、アイコニック オークショネア社の公式オークションカタログ撮影の際には、PRV-V6エンジンが力強いパフォーマンスを発揮した。現場に居合わせた多くの愛好家たちを惹きつけたという。カタログ作成時点において走行距離計の表示するマイレージは依然として3万8482マイルにとどまっており、現在の英国MOT車検は2026年10月まで有効である。
高騰するヤングタイマー市場で際立つ落札価格
ところで、2000年代初頭までの国際マーケットにおけるデロリアン DMC-12といえば、数百万円でも十分に手の届くような、比較的安価なヤングタイマー クラシックカーだったことをご記憶の方も多いだろう。しかし今回の出品にあたってアイコニック オークショネア社では、現在の販売実績から割り出された相場価格よりもさらに少し高めな、5万ポンド〜6万ポンドのエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
バーミンガムのNECで行われた競売では、この自信ありげなエスティメートを裏づけるコンディションと評価されたのか、ビッド(入札)は順調に進んだ。終わってみればエスティメートの範囲内に収まる5万4000英ポンド、現在のレートで日本円に換算すれば約1156万円で競売人のハンマーが振り下ろされたのである。
※為替レートは1英ポンド=214.16円(2026年5月9日時点)で換算。




















































































