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約435万円で落札された「ポルシェ944」トラックデイ仕様は英国独特の深い自動車趣味文化の成せるワザ

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: iconicauctioneers  FACT CHECK: 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)

サーキットとシティ併用NA3リッター&ウェーバー武装のポルシェ944が高値で落札のワケ

英国で開催された「スーパーカーフェスト・ランウェイ2026」のオフィシャルオークションに、異彩を放つ1台のポルシェが出品された。1988年式のポルシェ「944ターボ」をベースに、サーキット走行を主眼として徹底的にチューニングされた魔改造モデルだ。オリジナル状態が尊ばれるクラシックポルシェ市場において、本気のチューニングカーが正当に評価された背景と、その圧倒的な作り込みの全貌を明らかにする。

英国のトラックデイ文化が育んだ公道走行も可能なサーキット仕様ポルシェ944

自動車趣味が深く根付くイギリスでは、「トラックデイ」と呼ばれる参加型イベントが盛んに行われている。愛車をクローズドコースに持ち込み、気兼ねなくスポーツ走行を楽しむ文化だ。ナンバー登録された車両でサーキットまで自走し、全開走行を楽しんだのちに再び自走で帰宅する。そんなライフスタイルを満喫するために改造されたチューンドカーは、英国のクルマ好きにとって最上の相棒となる。

今回オークションに出品された944も、そんなトラックデイ向きに仕立てられた1台だ。もともとはスタンダードな「944ターボ」として1988年に生産された後期型の個体である。それから数十年のときを経て、英国の経験豊富なエンジニア集団によって本格的なサーキット仕様へと生まれ変わった。公道での実用性も視野に入れつつ、妥協のないチューニングが施されている。

NA3リッター化とウェーバー50φで350psを叩き出す本気のエンジンチューン

心臓部にはノーマルの2.5リッターOHC4気筒8バルブエンジン(928用の5リッターV8エンジンの片バンクを使用)から、944のチューニングでは世界的にも有名な英国のリンゼィ・レーシング(Lindsey Racing)社が組み上げたフルカスタム仕様の3リッター直列4気筒NAエンジンを搭載した。大幅に排気量を拡大し、イタリアのウェーバー製55口径キャブレターを2基掛けでセットアップしている。さらにOMEX製のイグニッションシステムや専用設計のインテーク、マグネコア製のイグニッションコードなどを組み合わせた。これらのチューニングにより、最高出力は約350psに達する(後期型944Turbo Sは250ps/6,000 rpm)という。

エンジンのチューニングだけに投入された費用の請求書は、総額で約1万ポンド(約215万円)にものぼる。現代では珍しくなったキャブレター仕様の大排気量NAエンジンは、痛快なレスポンスと荒々しい吸気音を奏でるはずだ。駆動系には軽量フライホイールと強化クラッチ、クイックシフト仕様の5速マニュアルトランスミッション、そしてリミテッドスリップディファレンシャルが組み込まれている。特注のアルミ製ラジエーターやマグナフロー製の専用エキゾーストなど、冷却系や排気系にも一切妥協はない。

924Turbo GT仕様のルックスにバイパーグリーン外装とサーキット走行に適したシャシー&内装

エクステリアは、近年のハードコア系ポルシェで定番となっている「バイパーグリーン」で鮮やかにペイントされている。一連の「924ターボGT」シリーズを彷彿とさせる、ル・マンスタイルの透明カバー付き固定ヘッドライトが印象的だ。サンルーフは撤去され、リアウインドウは軽量なポリカーボネート製に置き換えられている。カーボン製のフロントスプリッターや各部に設けられたNACAダクト、18インチのBBS製スプリットリムホイール(ノーマル16インチ)が、レーシーな雰囲気をさらに高めている。

シャシーのセットアップも抜かりない。レダ製の調整式ダンパーと強化ブッシュにくわえ、944ターボ用のブレーキキャリパーと高性能パッドを装着した。車内から前後バイアス調整が可能な専用ブレーキシステムも構築されている。室内にはセーフティデバイス製のフル溶接式ロールケージが張り巡らされ、FIA規格のレカロ製バケットシートと消火システムを完備した本気の内装だ。

オリジナル至上主義のクラシック市場でも本気の改造車が正当に評価された意義とは?

これほどまでに手が加えられているにもかかわらず、完成後はほとんど走行する機会がなかったという。アイコニック・オークショネア社は、この個体の推定落札価格を1万5000ポンドから2万ポンド(邦貨換算約322万円から430万円)に設定した。チューニング内容の濃厚さを考えれば、かなり控えめな数字である。しかし、5月に行われた競売では順調に入札が進み、最終的には最高値を上回る2万250ポンド(邦貨換算約435万円)で落札された。

現代のクラシックカー市場では、新車当時のままを保つフルオリジナル状態であることが価格高騰の絶対条件になりつつある。だが、この944はそんな市場のトレンドとは完全に対極にある存在だ。しかし、目的意識のはっきりとした本気のチューニングには、確かな価値を理解できる文化とそれを支えるエンスージャストが存在する。多様な自動車趣味に理解を示すイギリスならではの文化が、チューニングカーの価値を正当に押し上げた見事な事例だといえるのかもしれない。

※為替レートは1ポンド=215円(2026年7月3日時点)で換算

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 1960 年生まれ 大学卒業後ベストカーガイド編集部勤務。1990年オートスポーツ誌に転職、1992年F1速報誌(アズエフ)編集長。1995年月刊ビデオマガジン編集部に転職、1996年ベストモータリング編集長(のち局長兼務)。2005年ネコパブリッシング・イベント本部長/4輪編集局長兼務。2015年交通タイムス社に転籍、2020年より現職(総編集局長)自動車の分野に問わずオールマイティだが、特に旧いモータースポーツとクラシックカーに造詣が深い。愛車は1969年DATSUN Fairlady SRL311/YAMAHA RD250ほか

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