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オリジナル状態で完全レストアされたデ・トマソ「パンテーラGTS」という伊米合作スーパーカーの現在の立ち位置

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TEXT: AMW編集部  PHOTO: iconicauctioneers  FACT CHECK: 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)

イタリアのシャシー&デザインとアメリカンV8パワーという混血スーパーカー、パンテーラGTS

クラシックカー・オークションの世界では、時に予想もしないドラマが起こり得る。英国アイコニック・オークショネア(Iconic Auctioneers)社の競売に、イタリアの秀でたシャシー技術と見事なウェッジシェイプボディが、アメリカの豪快なパワーソースが融合した名車、デ・トマソ「パンテーラGTS」の1975年式の極上車が登場した。希少な右ハンドル仕様で、走行距離わずか2万3232マイル(約3万7380km)というコレクター垂涎の個体だ。クラシックカーオークション市場で注目のV8スーパーカーは、50年を経た現在でどのような立ち位置にいるのだろうか。

トム・チャーダが描いた美しい初期ナローボディにマットブラックのツートーンが「GTS」の証

今回、英国のオークションに姿を現した個体は、ただのパンテーラではない。新車時からイギリスに納車された非常に希少な右ハンドル仕様であり、過去のオーナー記録はわずか1名にとどまるという、奇跡的なコンディションを維持した個体であった。

パンテーラの中でも「GTS」は、よりスポーツフォーカスを強めた進化版として知られている。この個体が多くの自動車愛好家を惹きつけるのは、名匠トム・チャーダが筆を執った初期型の「ナローボディ」が持つ純粋なラインを色濃く残しつつ、太いタイヤを履かせるために少しだけ膨らみを見せたフェンダーライン。もちろんマットブラックに塗装されたボンネット/エンジンフード/ボディ下部やサイドに記された大きな「PANTERA GTS」などが特徴となる。後年の「GT5」モデルで見られるリベット留めの過激なオーバーフェンダーも魅力的だが、初期モデルのスマートで洗練された佇まいには、ヨーロッパのカロッツェリアが持つ本来の美学が宿っている。

外装は、工場出荷時と同じミッドブルーのボディに、マットブラックのボンネットとリアデッキカバーを組み合わせた絶妙なコントラストに仕上げられている。新車時にイギリスのディーラーを通じて供給されたこの車両は、納車前にGTS仕様のコンポーネントが組み込まれた。当時の書類によれば、このような特別な仕立てでデリバリーされた個体は限られており、あのブルネイ国王に納車された例もあるほど、極めてプレミアムな血統を持つ1台だ。

「フェラーリのルックスを、フォードの価格と信頼性で」とファンが評したパンテーラ

スーパーカーの心臓部といえば、繊細な多気筒マルチバルブエンジンを想像する人が多いかもしれない。しかし、パンテーラの最大の魅力は、その流麗なイタリアンボディのミッドシップに、アメリカ・フォード製の屈強な5.8リッターの大排気量V8エンジン「351クリーブランド」を搭載したというパッケージングのギャップにある。

この「イタリアのシャシー&デザインとアメリカの心臓」という組み合わせは、1970年代当時のスーパーカーの弱点であった「エンジンの気難しさ」や「メンテナンスの難解さ」を克服するための、極めて合理的で大胆なアプローチであった。大量生産ゆえに信頼性が高く、安価でパーツが手に入るアメリカンV8を採用したことで、パンテーラは過激なパフォーマンスを日常的に味わえる唯一無二の存在となったのだ。

この個体は、シャシーとエンジン番号が一致する「マッチングナンバー」を維持しており、そこへZF製の5速マニュアル・トランスミッションが組み合わされている。15インチのカンパニョーロ製マグネシウムホイール(フロント8J、リア10J)もプロの手で完璧にレストアされており、当時のままの強烈なオーラを放っている。

V12モデルには遙か及ばないが、イタリアンV8比較ではパンテーラの価値が一歩リードか!?

この個体には、4年という途方もない歳月をかけて、オリジナリティを最優先した徹底的なレストアが施されている。ボディシェルは一度完全に剥離され、丁寧な防錆処理を施した上で美しく組み直されている。インテークマニホールドやフォード製キャブレター、純正のエアボックス、ジャッキや工具にいたるまで、当時の貴重なオリジナルパーツが大切に保管されている。さらに、新車時の注文書から最初の点検記録、過去の車検書や当時のカタログまで、クルマの生い立ちを完全に証明する膨大なヒストリーファイルが揃っていた。

事前の予想落札価格は12万ポンド〜13万ポンド、日本円にして約2580万円〜約2795万円という高額なエスティメートが設定されていた。しかし、実際の競売ではリザーブ価格(最低落札価格)に届かず、結果は「NOT SOLD(流札)」という結末を迎えることになった。

この予想落札価格を見てみると「イタリアンエキゾチックカー」という範疇で考えるには、かなり低めな設定に感じられる。そこには明確な理由があるようだ。性能的に比べるならフェラーリなら365GT4 BB、カウンタックならLP400となるが、どちらも現在のオークション価格では1億円かそれ以上となる。フェラーリで言うなら芸術的とも言える180度V型12気筒のコロンボユニットや生産車初の12気筒ミドシップモデルが価値となり、ランボルギーニは言わずと知れたその画期的スタイリング(初期型ペリスコピオ)が圧倒的価値となる。

では、同じイタリアンエキゾチックカーでも8気筒モデルでの比較ではどうか。ランボルギーニ「ウラッコ」やシルエットとパンテーラGTSを比較すると、今度はパンテーラの方が2倍近いオークション落札価格となる。マセラティ「ボーラ(V8)」とはほぼ同価格帯となり、少し後に出てきたフェラーリ308や格下のV6搭載モデルのメラクとなるとパンテーラGTSが優っているようだ。新車発売当時の欧州では、フェラーリ308GTBの約3分の1(308GTB:約2万8500〜3万ドル パンテーラGTS:約9500〜1万ドル)で買えた事を考えると、およそ半世紀を過ぎそのヒエラルキーが逆転してしまうという自動車の歴史の非常に興味深いドラマを見ることができる。

※為替レートは1ポンド=215円(2026年7月8日時点)で換算

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  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 1960 年生まれ 大学卒業後ベストカーガイド編集部勤務。1990年オートスポーツ誌に転職、1992年F1速報誌(アズエフ)編集長。1995年月刊ビデオマガジン編集部に転職、1996年ベストモータリング編集長(のち局長兼務)。2005年ネコパブリッシング・イベント本部長/4輪編集局長兼務。2015年交通タイムス社に転籍、2020年より現職(総編集局長)自動車の分野に問わずオールマイティだが、特に旧いモータースポーツとクラシックカーに造詣が深い。愛車は1969年DATSUN Fairlady SRL311/YAMAHA RD250ほか

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