決して人気モデルではないメラクの市場評価はいかほど?
2025年4月13日、英国チチェスター近郊のグッドウッド・サーキットにて開催されたエクスクルーシヴなレースイベント「グッドウッド・メンバーズミーティング」。その公式オークションとして行われた名門「ボナムズ」社の「GOODWOOD Members Meeting 2025」に出品されたのは、1983年生産のマセラティ「メラクSS」。以前は1000万円超えが珍しくもなかったこのモデルが、今はいかなる評価を受けるのか……? オークションレビューで追跡してみることにした。
ミッドシップで2+2、実用性も狙ったミドル級スーパーカー「メラク」とは?
1972年のパリサロンで初公開されたマセラティ「メラク」は、その1年前、1971年に登場した「ボーラ」の妹分。ミドシップに搭載されるパワーユニットは、マセラティのジュリオ・アルフィエーリ技師が、当時のマセラティの実質的な親会社であったシトロエンのGTカー「SM」用として設計した90度V型6気筒エンジンである。
V6としてはやや変則的な90度のバンク角は、元来レーシングスポーツカー「450S」に搭載されていたものから発展。ディチューンし、ボーラにも搭載されていたマセラティV8をベースに2気筒分をカット、6気筒化したといわれている。
このV6エンジンは、シトロエンSMの3L版と同じ排気量2965ccながら、よりハイパワーにチューニングされ、190ps/6000rpmの最高出力と26kgm/4000rpmの最大トルクを発生する。最高速度は245km/hをマークすると標榜していた。
また、スタイリッシュなクーペボディのデザインも、ボーラと同様に「イタルデザイン」社のジョルジェット・ジウジアーロが手掛けた。ノーズからキャビンに至る前半部は、ボーラとほぼ共通のもの。しかし後半部は、ボーラのファストバックに対しメラクはほぼ垂直のノッチがつけられるとともに、より広い後方視界を確保している。またこのスタイルを選択した最大の成果として、絶対的なスペースこそかなり狭いながらも「+2」のリアシートを得ることもできた。
ファストバック風に見えるフライングバットレスとは
ただし、ルーフから連続してテールにおよぶ梁状のピラー。いわゆる「フライングバットレス」が左右に取り付けられているため、視覚的にはボーラと同様ファストバックに見えるようになっているのも重要なアイキャッチとなっていた。
ところで、ボーラ/メラクにおける最大の技術的特徴は、当時マセラティの親会社だったシトロエンから拝借した、油圧による「ハイドロニューマティック」テクノロジーが、ブレーキやポップアップ式のヘッドランプ昇降システムなどにも導入されていたことだろう。
そして1975年のジュネーヴ・ショーでは、よりハイスペックとされた「メラクSS」が発表されることになる。SSは実質的なマイナーチェンジ版で、V6ユニットは排気量を変えることなく最高出力を220ps/6500rpmまでスープアップした。
しかし、マセラティは親会社だったシトロエン本社が経営破綻によりプジョーの傘下となり、デ・トマソ・グループ傘下に移行したことも相まって、それまで「アキレス腱」ともいわれていたシトロエン由来のハイドロ技術を、メラクSSではあっさりと廃止。その結果、初期のメラクに比べて約50kgの軽量化も実現したとされている。