希少なスバル「インプレッサWRX」ワゴンが残念過ぎる落札額だった理由
1990年代から2000年代にかけて、走行性能と積載性を両立するレジャービークルとして各メーカーから多彩なステーションワゴンが登場した。なかでも実用性よりスポーツ性能に重きを置いたモデルとして高く評価されたのが、スバル「インプレッサスポーツワゴン」である。2026年3月、英国のオークションに最上級グレード「WRX(現地名:2000ターボ)」が出品された。過酷な環境で使い倒された希少な最終型モデルのディテールと、驚きの低価格となった落札結果の全貌をお知らせしたい。
WRCのノウハウを注ぎ込んだ新感覚のスポーツワゴンが誕生
スバルが起死回生を狙って投入した「レガシィ」の成功を受け、その優れたコンポーネントを活用して1992年に登場したのがスバル「インプレッサ」だ。国内のみならずグローバルでの販売も想定したCセグメントカーであり、とくに欧州市場をターゲットに据えて開発が行われた。前後のオーバーハング(前後タイヤの車輪軸から、車体の最先端や最後端までの張り出している部分)のことを切り詰めたクリーンなスタイルを打ち出し、ソフィスティケートしたカジュアルなエクステリアは、若者層からも支持を集めた。
ボディタイプはオーソドックスな4ドアセダンとスポーツワゴンの2タイプを設定した。とくに後者はレガシィ ツーリングワゴンのような正統派ワゴンとは異なり、5ドアハッチバックとワゴンの中間的に位置するスタイルで、デザイン的にも高い新鮮味を備えていた。

エンジンはレガシィで開発されたEJ20(型)とEJ18(型)に加えて、さらに排気量の小さいEJ16(型)とEJ15(型)も用意している。1.5リッターのFF車であれば車重は1100kg台中盤に収まり、軽めのボディと相まって軽快なハンドリングも楽しむことができた。
最上級グレードとなるWRXは、WRC(世界ラリー選手権)で活躍した2リッター水平対向4気筒ターボエンジンとシンメトリカルAWDを組み合わせたモデルであったが、英国仕様では現地のオクタン価事情や排ガス規制、保険の分類別に対応するため218ps/31.0kg-mのパフォーマンスに抑えられていた。日本国内仕様のスペックは、最終的に当時の自主規制上限である280ps/36.0kg-mまでパワーアップを果たしている。
傷みやサビが目立つ1999年式の最終型モデルがオークションに登場する
また、モデル後半には最低地上高を200mmまで高め、カンガルーバーといったSUV的な加飾を加えた「グラベルEX(エックス)」や、レトロ路線を取り入れた「カサブランカ」など個性的な派生モデルを展開している。2000年8月に2代目にバトンタッチするまで、ワゴンの新たな可能性を追求し続けた意欲作と言えたモデルだ。
今回、「The Classic Car and Restoration Show 2026」内で行われたオークションに出品されたのは、最終型に近い1999年式のスバル インプレッサスポーツワゴン 2000ターボ(Impreza Turbo 2000 EstateまたはWagonが正式名称で、日本のWRXに相当するマシン)である。なお、英国市場では当時「WRX」という名称を使用せず、「Turbo 2000(2000ターボ)」という現地名で販売されていた。これは現地の自動車保険の等級制度において、ラリーを連想させる過激なネーミングが保険料の高騰を招くことを避けるための措置であったとも言われている。とはいえ、ツーリングワゴンが好まれる欧州市場においては、優れたコストパフォーマンスを備えた高性能モデルとして今なお高い支持を得ている1台だ。

ボディカラーはシルバーメタリックを採用している。STI仕様の代名詞といえるチェリーピンクの六連星エンブレムと、ゴールドに塗られた17インチホイールのチョイスはマニア心をくすぐる仕様だ。しかし、車体各部には凹みがあり、部分的な板金塗装歴も確認できるなど、コンディションが良いとはお世辞にも言えない状態である。
経年劣化が目立つのはエクステリアだけではない。ボンネット下のエンジンルーム内にも各部にサビが点在しており、季節を問わず長年にわたって使い倒されていたことが伺い知れる。
融雪剤によるダメージが響き推定落札価格の半値以下で取引終了
出品情報によると、前所有者は女性オーナーで「アルプス旅行のために購入した」との一文があり、さらに冬タイヤを装着していることから、雪道を含めた過酷な環境で使用されていたことが推測される。
整備記録は残されており、8万6000マイル(約13万8000km)走行時にタイミングベルトを交換したほか、ラジエーターや燃料ポンプなどを刷新している。前回のMOT(英国の車検制度)でもボディメンテナンスを行っている。しかし、どれだけ丁寧に手を入れても、アルプスでの走行を含めての融雪剤によるボディへのダメージを完璧に防ぐことは不可能に近いということだ。

インテリアはネイビーブルーの純正セミバケットシート、MOMO製のステアリングホイール、オーディオを含めてオリジナルの状態を維持している。とはいえ車両全体のコンディションを考えると、このような個体が権威ある「アイコニック・オークショニアーズ」の公式オークションに出品されたこと自体が意外に思える。
エスティメート(推定落札価格)は、レストアが必要な状態であることや9万9000マイル(約15万9300km)という走行距離を考慮し、希少な最終型ながら5000ポンド〜7000ポンド(邦貨換算約109万円〜約152万6000円)と低めに設定された。
それでもこの個体に触手を伸ばすコレクターは少なく、最終的には推定落札価格の半分にも届かない2475ポンド(邦貨換算約53万9550円)という安価でハンマーが落とされた。
出品者がこの価格での売却を受け入れたことからも、「保管や維持の負担を優先したかった」という思いが透けて見える。今後はレストアのベース車両として再生を果たすのか、あるいは部品取りとして活用されるのかは知る由もない。しかし、歴史的な価値を持つ名車を数多く取り扱う国際オークションの舞台で、こうした個体が取り扱われることに複雑な思いを抱いたのは筆者だけではないはずだ。
※為替レートは1ポンド=218円(2026年7月20日時点)で換算











































