クルマの走る歓びや楽しさを足元から伝えるマルゼン
印象的なテレビCMでお馴染みの株式会社マルゼンホールディングス(以下、マルゼン)。このCMに登場しているのが、代表取締役の米岡功二氏である。マルゼンは米岡氏のご尊父が経営していた会社。それだけにクルマやホイール、チューニングパーツはごく身近に、あたり前にあるものだったそうだが、しかしご本人は免許を取るまで、ほとんどそういったものに興味がなかったそうだ。ではなぜクルマに興味がわき、カスタムの楽しさを知るようになって会社を継ぎ、ここまで会社を成長させることができたのか。インタビューを通じてマルゼンが考えるカスタムの楽しさ、企業としての理念、そしてマルゼンの未来について迫っていこう。
米岡功二氏のクルマ遍歴
マルゼンはタイヤやホイールを販売する小売店というだけではなく、たとえばオリジナルホイールの開発もおこなういわばプロショップとしても知られている。CMで米岡氏が歌っている「ロク・ロク・ロク・ロク・ロクサーニ」というのは、同社のオリジナルホイールブランド「LOXARNY」のことだ。
1981年にホイール&タイヤの専門店として創業したマルゼン、現在では関西に4店舗、関東に1店舗を構える他、大規模な通信販売を展開するようになったのだが、その成長を幼いころから目の当たりにしてきた米岡氏は、当然クルマやパーツが身近にある生活を送ってきた。
「ところがですね、子供のころはあまりクルマに対する興味がなかったんです。家業ですから、ほかのかたよりも多くクルマに触れたりする機会はありました。しかしそれがあたり前になっていたんだと思います。
ただ、大学生のときに自動車免許を取得し、はじめてのクルマとして無限のエアロパーツやホイールが装備されている、ホンダのフィットRSを買ったんです。はじめてのクルマということでほかのフィットと見比べたりしたときに、カスタムしているとかっこいい、ということを、はじめて感じたのです。
その後、家業を継ぐことになり、最初は現場で仕事をすることで勉強をはじめたのですが、そこでいろいろなお客様に出会い、個人個人で違うクルマの楽しみかたやパーツの選びかたを勉強させていただくうちに、カスタムして楽しむということに興味がわきました」
愛車選びはマルゼンの経営に直結している
一社員としてマルゼンに入社した米岡氏が、次に自身の愛車として購入したのはマツダ「アクセラ」だった。
「スポーツイメージの強いハッチバック、というのがアクセラを気に入っていたポイントでした。当然、車高調整式のサスペンションやホイール交換など、カスタムもいろいろ楽しみました。やはり自分のクルマを自分が気に入るようにカスタムしていく、というのは楽しかったですね。ここでカスタムの楽しさを知ったと思います」
その後、マルゼンでは輸入車用ホイールやパーツも扱っているということから、メルセデス・ベンツのW204「Cクラス」を親族に譲ってもらったそうだ。
「輸入車はサスペンション交換やホイール交換などをするとき、きちんと考えたパーツ選択をしないとエラーが出てしまうことがあります。こういうことも知識としては知っていましたが、自身で経験したというのは勉強になりましたね。次に同じメルセデス・ベンツのGLK、いまでいうGLCに乗り換えたのですが、これはSUVカスタムを楽しまれるかたも多い、ということから選んだもので、大径ホイールやLEDルーフライトの装備など、アウトドアスポーツユーザー目線でのカスタムを楽しんでいました」
そしてその次に乗ったのは、トヨタ「ランドクルーザー・プラド」だった。
「やはり、といってはなんですが、同じSUVでも国産車は安心感が違います。エラーという点もそうですが、パーツが豊富で選びやすい、というのも大きいですね。実際自分でもアウトドアスポーツを楽しむようになっていたので、プラドはいいと自信を持って言えますね」
その後社用車を数台乗り継ぎ、現在の愛車は毛色がまったく違うスポーツカー、レクサス「RC」である。
「代表取締役となり、その立場で乗るクルマを考えたとき、自社製ホイールをアピールするためのアイテムでなければならない、ということもあって、レクサスRCを選びました。ですので愛車というよりは、展示車という立ち位置のほうが強い感じですね。本当はLCでもいいのでは、とも思ったのですが、さすがにこれは背伸びしすぎかと思って自重しました(笑)。
しかしこのRCは、乗りやすいですね。日本の駐車場のほとんどは1850mm幅となっていて、マンションとか立体駐車場の多くは、この幅となっています。その点も含めて、いざというとき4人乗れるスポーツタイプのクルマは、RCかGR86/BRZとなってしまいます。そのためRCを選びました」
このレクサスRCも含めて、これまでに乗ってきたクルマと、それをカスタムしてきた経験は、マルゼンの経営方針策定にも活かされている。
「マルゼンはクルマに乗っているお客様に、走る歓びや楽しさといったものを伝えていきたいと考えて仕事をしています。それをまずは自分のクルマで味わってみる、というのは大事なことだと思っています。その上で、カスタムをすることでご自身が満足できるということ、ほかの人から注目してもらえるということ、それによってお客様自身が感じられる優越感。これも大事なものだと思っています。
ご自身が満足するだけではなく、見た人に凄いね、かっこいいね、と言ってもらえることが、長く乗り続けるときの大きなポイントとなってくると考えているのです」
クルマが好きだからこそユーザーと同じ目線に
この考えかたの根底にあるのは、米岡氏が本筋としている、仕事に対する想いである。
「カスタマイズをご要望されているお客様をお迎えするからこそ、自分自身も色々なカスタムを経験して楽しむ。これが様々なご用件に対応ができることに繋がっていく。それこそが、よりお客様に近い本音のお付き合いができるのではと思っています。
私の場合は最初からクルマ好きというわけではなく、仕事を始めてからどんどん興味がわいていき、どんどんクルマとクルマのカスタムが好きになってきた人間ですので、余計にそう感じるのかもしれません」
その想いが現れているのが、マルゼンの走る歓びや楽しさを伝えていきたいという経営方針だ。さらにいえば、1台でも多く、世の中のクルマのホイールを換えたい、そのことによって世の中のクルマをもっとオシャレにしたい、と米岡氏は考えている。
「クルマというのはタイヤやホイールを換えるだけでも大きく印象が変わります。クルマを買ってまずホイールを換えたら、他人とは違うオンリーワンのおしゃれさが演出できます。そのお手伝いをすることで、もっとクルマに乗りたくなるという気持ちを広げていきたいのです。
そのためまずは地域密着、人と人との繋がりが感じられる店舗販売を中心として仕事をしていました。しかしこれだけでは店舗のないエリアのお客様への対応が出来ません。そこで店舗販売と並行して通信販売にも早い段階から力を入れています。
通信販売は、人気商品については事前に在庫を確保しておかなければレスポンスが悪くなり、お客様にお待ちいただくこととなってしまいます。そのため物流倉庫を用意する必要がありますし、いち早く新製品情報を仕入れてどのホイールが人気になりそうかなど予測を立てた、的確な仕入れをおこなう必要もあります。その上で、なるべく安くお客様にご提供するためのコストダウンもおこなわなければなりません。
このように通信販売は店舗販売とは違う工夫が必要なのですが、当社は足まわり商品にターゲットを絞っていることで多品種のお店よりもリスクが小さいということから、ここに注力できたという側面もあります」
タイヤ、ホイールに特化している点は、作業時間の短縮という部分にもつながっている。
「店舗を見にこられた同業他社のかたにも驚かれるのですが、当社のピット作業はおそらくは日本一といっていいくらいの短時間となっています。これは社員のみなさんの工夫のおかげでもありますが、タイヤ、ホイールの交換のみを行っているということもあるでしょう。
ただ、短時間であるということは、お客様をお待たせしないという点では大事なのですが、それが最重要というわけではありません。もっとも大事なのは、安心・安全、確実な作業です。タイヤやホイールはドライバーや同乗者のかたの命を背負っている部品です。安心・安全がなければ、楽しむどころか危険でさえあります。そのため当社ではダブルチェックは当然とした作業をおこなう上で、技術の向上を図っています」