アメリカでの余生、そしてフェラーリ史上最高額のハンマープライス
ラッテリはフェラーリ250GTO#3765とともに、1966年3月にもヒルクライムでクラス優勝を果たしたのち、1967年初頭にはGTOをファクトリーに返却した。
それから数カ月ののち、#3765は大西洋を渡り、カリフォルニア在住の愛好家が入手。レーシングカーとしての役割は終え、コレクションとして注目を集めはじめ、いくつかのコンクール・デレガンスで受賞した。
1974年にはアメリカン・モーターズ社のエンジン設計部門マネージャーとして働くかたわら、FCA(フェラーリ・クラブ・オブ・アメリカ)会長でもあったフレッド・レイドルフが購入。自動車デザインの歴史を展示するショーなどにも姿を見せるようになる。
そして1985年4月、レイドルフはオハイオ州在住の熱心なコレクターである現オーナーに#3765を譲渡。以後は、現在に至るまで度重なるレストアやメンテナンスを受けながら、北米各地のサーキットイベントやツーリング、コンクールなどに姿を見せていた。特にコンクールでは、今世紀に入ったのちも「ペブルビーチ」や「アメリア・アイランド」などの一流どころで目覚ましい成果をあげている。
さらには「Sports Car Graphic」、「Road & Track」、「Autosport」などの雑誌で当時のレースキャリアが記録されているほか、フェラーリに特化した現在の「Prancing Horse」や「Cavallino」などの専門誌で何度も紹介されている。
この330 LM/250GTOには、初期の歴史を明らかにする公式ドキュメントが残されており、その中には2組のビルドシート(ニュルブルクリンクとル・マンに向けてファクトリーが作成したもの)や、1963年5月に本社ファクトリーで行われた250 GTO仕様への改装の概要を記した3枚目のスペックシート(現在搭載されているエンジンへの換装も含む)も含まれている。
そしてRMサザビーズ北米本社は、このクルマただ一台だけを商品とするオークション「The One」をニューヨークで開催することを決定。実に6000万ドルという、驚きのエスティメートが設定された。
こうして11月13日に、ニューヨークで行われた競売ではエスティメートにこそ届かなかったものの、2023年のオークションで落札された自動車としては最高額。また、歴代のフェラーリとしても最高額に相当する5170万5000ドル、邦貨換算すれば約78億6400万円で小槌が落とされることになった。
この落札価格は、2022年5月に同じくRMサザビーズのオークションでメルセデス・ベンツ「300SLRウーレンハウト・クーペ」がたたき出した1億5000万ユーロ、当時の日本円換算で約184億円というハンマープライスには及ばない。しかし、あのオークションには「メルセデス・ベンツ基金」に売り上げを寄付するなどのイレギュラーな要素も含まれていたことから、今回の落札価格は通常のクラシックカーマーケットにおけるハイエンド、と見る向きもあるようだ。
ともあれ、波乱にとんだ2023年のクラシックカー業界も、ひとときの休眠に入る。来年はどんなクルマがマーケットに現れるのか? 興味は尽きないのである。