テスタロッサ一族の最終進化形
フランスの首都パリにて毎年2月に行われるクラシックカー・トレードショーの世界最高峰「レトロモビル」では、付随するかたちで複数の国際格式オークションが開催されます。なかでも規模・内容ともにもっとも本格的といわれているのが、クラシック/コレクターズカー・オークション業界最大手のRMサザビーズ欧州本社が開催する「PARIS」オークション。2024年もレトロモビルに訪れる目の肥えたエンスージアストを対象とした、レアなクルマたちが数多く出品されたようですが、今回はその中からフェラーリ「テスタロッサ」ファミリーの最終進化形「F512M」のモデル概要と、注目のオークション結果について紹介します。
生産台数はわずか501台、もっとも希少なテスタロッサの末裔とは?
フェラーリの傑作「テスタロッサ」の特徴的なウェッジシェイプは、狂瀾の1980年代を象徴するイメージが強いと思われがちである。だが1984年のデビューから10年間で、2度にわたる大規模なブラッシュアップが施され、1990年代中盤までスーパーカー界の旗手であり続けた。
1991年に登場した「512 TR」は、エクステリアの小変更とインテリアのデザインを一新。さらにメカニズムを大幅に進化させたことで知られているが、さらに1994年に発表された「F512 M」は、テスタロッサ・ファミリーの最終進化形といえるだろう。
接尾辞の「M」は「Modificato(モディファイした)」を意味したもので、テスタロッサから512TRへの進化の度合いに勝るとも劣らない改良がおこなわれた。
テスタロッサで初めて気筒あたり4バルブとされた180度V型12気筒4カムシャフト・4943ccエンジンは、512TRへの進化にあたってムービングパーツの軽量化を図るとともに、シリンダーとライナーもニカシルコーティングによって最新化。また燃料供給もボッシュのKEジェトロニックからモトロニックに変更している。さらに吸排気系に大規模なモディファイを受けていたのだが、F512 Mではさらに鍛造アルミ製ピストンやチタン製コンロッドなどを採用することによって12psパワーアップされ、最高出力は440psに到達することになった。
くわえて、ノーズとテールには大規模なフェイスリフトが施され、とくにテスタロッサ/512TRにカリスマ的な表情をもたらしていた4灯リトラクタブルヘッドライトに代えて、一体型のカバーつきヘッドライトが、ちょっとファニーな表情を醸し出していた。
しかしこの時代、フェラーリはすでにFRレイアウトを採る「550マラネッロ」への移行が既定路線となっており、F512 Mの生産期間は2年間だけ。総計501台しか製造されず、デビューから30年を経た現在では、テスタロッサ愛好家やフェラーリ・コレクターの間でとくに切望されるモデルのひとつとして認知されているようなのだ。