5本タイプのハブボルト採用で応答性に不安なし
さて、初代バレーノの記憶からして一番心配をしていたのが、ステアフィールにはじまり直進安定性からハンドリングまでのボディ性能を含めたシャシー能力であったが、当時よりもボディ剛性及びそのバランスの在り方、空力特性なども進化していることを前提としたうえで、さらに着目すべきは日本仕様ではハブボルトを現地仕様の4本タイプから5本タイプへと変更していることにある。
スズキにおける傑作車と断言できる現「スイフトスポーツ」も5本タイプを採用するが、これによるハブ剛性の向上は、路面からの入力に対しても駆動系やステアリング系からの入力に対しても、応答性の向上が期待できる。初代バレーノは、電動パワステ自体の不出来とともにシャシー周りの剛性不足などにより、直進安定性の悪いクルマだったとの思いが強いのだが、フロンクスはADASの制御を携えた新しいステアリング系の採用もあって「普通」にはなっていたので安堵した。もっとも、ベンチマークたる同クラス欧州車と比べさせてもらうなら、まだまだの感は残る。
ステアリングは、センター付近の人工的な座り感の強い味付けと小蛇角からの戻りの悪さなど、すっきり感や正確性には少し欠くところもあると感じさせたが、一方で、最大切れ角を大きく確保し小回り性能をしっかりと持たせているのは、コンパクトカーの扱いやすさを知り尽くしたスズキらしい面である。
その上で、ワインディング等で知れたのは、ステアリングの正確性はともかく、FF仕様、4WD仕様ともに切ればまずますの応答性を備えることで、横Gが増した領域でも不安にさせるようなことはなかった。
日本だけの4WDは雪道でもしっかり機能
乗り心地は、前席と後席では多少印象が異なり、前席はシート自体の出来が好ましいこともあって、フロアからの多少のブルブル感の伝達を除いては快適性は高いほう。20分ほど座ってみた後席は、頭上に少し圧迫感はあるものの足元は4WD仕様でも変わらず広く確保されラクな姿勢で座れる。これで少し気になる突き上げ感が低減されればと思う。
日本向けだけに設定された4WDは、ビスカスカップリングを介するタイプで、通常はほぼ前輪駆動を基本として、前後輪回転数差に応じ後輪への駆動力を配分する。この種の油圧カップリングの場合、後輪への駆動レスポンスの遅れが気になるものも少なくないのだが、今回は試乗に出かけた群馬県の山中で遭遇した雪道、氷雪路では、思いのほかに後輪への駆動レスポンスが速いこと、安定性においては4WD専用モードのひとつであるグリップコントロールの有用性も確認できた。このあたり、日本の冬におけるテストもきっちりなされているのだろうと想像できた。
特徴的なエクステリアデザインは煩雑に思えるところもあるが、存在感は得られているし、デイタイムランニングライトと兼用のターンシグナルランプとヘッドランプとが離れていることで、夜間ヘッドランプ点灯時でもフロントウインカーの視認性がとても高いのは、気づきにくいが好ましいと思えた点。
主に走りにおいては、直進安定性などもうちょっと洗練度を高められたらといった思いが残った点もあるが、スズキの凄さは価格と内容のバランスレベルの高さにあり、フロンクスはその代表格であることには間違いない。
specifications
■SUZUKI FRONX(FF)
スズキ フロンクス(FF)
※〈 〉は4WD
・車両価格(消費税込):254万1000円〈273万9000円〉
・全長:3995mm
・全幅:1765mm
・全高:1550mm
・ホイールベース:2520mm
・車両重量:1070kg〈1130kg〉
・エンジン形式:直列4気筒DOHC
・排気量:1460cc
・エンジン配置:フロント
・駆動方式:FF〈4WD〉
・変速機:6速AT
・エンジン最高出力:74kW(101ps)/6000rpm〈73kW(99ps)/6000rpm〉
・エンジン最大トルク:135Nm/4400rpm〈134Nm/4400rpm〉
・モーター最高出力:2.3kW(3.1ps)/800-1500rpm
・モーター最大トルク:60Nm/100rpm
・燃料タンク容量:37L
・公称燃費(WLTC):19.0km/L〈17.8km/L〉
・サスペンション:(前)マクファーソンストラット、(後)トーションビーム
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ディスク
・タイヤ:(前&後)195/60R16





















































