独自の安全技術を開発して特許は独占せず公開
また、1959年には現在にも通じる本格的な衝突実験を開始した。テストカーは最初、ケーブルプルシステムによって駆動された。その後、温水ロケットが使用された。1969年には人間や車両の被害状況を調査し、事故原因を分析・研究する「事故調査活動」を始めた。そして、現在までに5000件以上の調査を行い、貴重なデータを蓄積している。
1967年に標準装備された衝撃吸収式セーフティステアリングシステム。1974年から採用したオフセット衝突に対応する衝撃吸収式ボディ、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)、シートベルトテンショナーとSRSエアバッグも、事故調査による結果から導き出された独自の安全技術である。しかも、メルセデス・ベンツがこれらの特許を独占せずに公開してきたのは、メルセデス・ベンツのクルマだけでなく、「世界中のクルマの安全性向上」を願ったからである。
ベラ・バレニーの名言である、
「これで完璧。などというものは存在しないのではないかと私は考えている。なぜなら、絶えず新しいやり方、新しい解決方法を模索しているからだ!」
という言葉は、今も引き継がれ開発されている。彼は安全性向上の多大な功績によって1994年に自動車業界で最高の栄誉であるアメリカの「自動車の殿堂」入りを果たした(1997年に90歳で永眠)。ダイムラー・ベンツ社にとっては、創始者であるゴットリーブ・ダイムラー、カール・ベンツに次いで3人目である。
メルセデス・ベンツの安全性の基本理論
すでに1951年、メルセデス・ベンツの技術陣は自動車の安全性理論、すなわち衝撃吸収式前後構造と頑丈なパッセンジャーセル構造の特許を取得していた。
その理論は事故発生時点を「0(ゼロ)」時点として、事故を未然に防ぐ安全性(アクティブ・セーフティ)と、事故が起こった後の被害を最小限に止める安全性(パッシブ・セーフティ)、この両面をカバーする処置を施さなければならないとしている。
このメルセデス・ベンツの安全理論は下記の通りである。1980年代の日本製カタログでは、必ずこの安全理論を図式にしていた(当時の輸入元のウエスタン自動車製作カタログより)。
【1】事故を起こさないための安全性/予測乗員保護=能動的安全性/アクティブ・セーフティ
・走行安全性=運転上の事故を起こさない安全性
・環境安全性=楽で疲労を予防する安全性
・操作安全性=簡単で分かりやすい操作性
・知覚安全性=十分な視界、視認性
【2】事故の被害を最小に止めるための安全性=受動的安全性/パッシブ・セーフティ
・外的安全性=対人・対物に安全な設計
・内的安全性=乗員を守る設計
メルセデス・ベンツの安全思想を樹木にたとえると、能動的安全性と受動的安全性という2つの枝がクルマの安全度を高めるという図式になる。
メルセデス・ベンツの開発ポリシーは、「安全性とは、たんなる自動車技術ではない。クルマと、それを操縦する人間、道路条件の総合的な研究なのである」としている。交通事故の原因を分析した結果、次のような相互関係が明らかになる。
・自動車=自動車側の対策として「能動的安全性・受動的安全性」
・人間=運転者側の対策として「規則を守る・注意深くする」
・道路=行政による対策として「道路計画・道路整備・交通形態」
つまり、「自動車」、「人間」、「道路」など、ひとつひとつの要素が互いにバランスがとれてこそ初めて交通の安全対策が確立されるのである。




























































