メルセデス・ベンツ独自の安全技術「プレセーフ」と「インテリジェントドライブ」
メルセデス・ベンツでは1939年から安全性の研究開発をスタートし、「安全なクルマ」というブランド価値を確立するとともに、特許を無料で公開してきました。40年にわたり正規ディーラーで活動した筆者が現役時代にユーザーたちに説明してきた、メルセデス・ベンツの独自の安全性を具体的に解説。今回は「プレセーフ」と「インテリジェントドライブ」について紹介します。
事故調査活動とドライビングシミュレーターが生み出した「プレセーフ」
メルセデス・ベンツの139年にわたる歴史のうち、前半は操縦安定性をはじめとする能動的安全性(アクティブ・セーフティ)の基礎を確立した時代とするなら、その後半は受動的安全性(パッシブ・セーフティ)という未知なる領域を切り拓き、そして再び能動的安全性とうまくバランスよく統合させた時代といえる。
近年ではとくにメルセデス・ベンツ安全部門のエンジニアたちは、能動的安全性に重点を注いでいる。つまり、衝撃の激しさを和らげるだけでなく、そもそも衝突や事故を起こさないための安全革新技術に注力し開発を続けている。
「ミスター・セーフティ」と呼ばれたベラ・バレニーと彼に続く安全部門のエンジニアたちは、安全性追求の答えを当初の実験場から、さらに路上での事故調査活動に求め続けた。実験では決して知ることのできない貴重なデータを収集し、安全性向上に役立ててきたことは、あまりにも有名な事実。彼らは現場に残された事故の真実を発想の原点に、ABSやSRSエアバックに代表される真に有効な安全技術を発明し、広く公開した。
この事故調査活動とドライビングシミュレーターが生み出した成果として注目すべき安全性が、2002年秋に「Sクラス/W220」で実用化した「PRE-SAFE(プレセーフ)」である。つまり、メルセデス・ベンツは能動的安全性と受動的安全性の間にあるほんのわずかな「空白」に着目したのである。
ドライバーが危険回避のための運転操作を行ってから実際に車両が衝突するまでに、「わずか数秒」の時間があること、またシートポジションなどが不適正な場合には、乗員の被害がより増大することを確認。この事実から、事故が起こる可能性を予測し、事前の早い段階で乗員保護の体制を整えようとする新しい安全コンセプト「プレセーフ」を世界に先駆けて開発、実用化した。能動的安全性と受動的安全性の虹の架け橋となるこの新しいプレセーフは、事故なき運転の実現を目指して取り組んでいる「総合的安全性」の成果のひとつでもある。
衝突や横転までに残された1秒たりとも無駄にしない
このプレセーフは、ドライバーが行った急ハンドルや急ブレーキの操作から車両側が事故の可能性を察知した瞬間に、乗員に対する安全体勢を整えて衝撃に備える反射神経を備えた、メルセデス・ベンツの新たなシャシー性能の一種であるといえる。
プレセーフの特徴は、フロントバンパーに取り付けられた短距離レーダーからの情報を活用し、回避できない衝突が起こる直前に前席のシートベルトを巻き上げて、ドライバーと助手席の乗員は衝突時に身体が前方に潜り込まなくなるため、頭と首にかかる衝撃を軽減する。この実験でのメルセデス・ベンツのエンジニアの記録によると、頭部にかかる衝撃が約30%、頸部にかかる衝撃が約40%減少している。このプレセーフ機能は事故発生の約0.2秒前に起動するため、事実上、予測乗員保護の最終手段となる。
プレセーフでは主に下記の5つの予測乗員保護が自動的に行われる。
・スライディングルーフが開いている場合、車両転倒の場合の危険に備えて閉まりはじめて、安全性を高める。
・衝突時に身体がもぐり込むことを防ぐため、助手席の前後位置、クッションや背もたれの角度を最適化する。
・横方向の大きな衝撃が加えられた際、サイドウインドウが開いている場合は、こちらも閉まりはじめ、乗員の安全性を守る。
・運転席と助手席の電動シートベルトテンショナーが作動し、シートベルトを安全なレベルまで素早く巻き上げる。
・前席の背もたれとシートクッションの一部が自動で膨らみ乗員を守る。
衝突や横転までに残された1秒たりとも無駄にしないというメルセデス・ベンツの執念は、やはり事故の真実を知らなければ生まれなかった。




















































































