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幻のTバールーフ・マセラティ「カムシン」!米国ディーラーが製造した改造車が約2800万円で落札

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: Courtesy of Broad Arrow

アメリカでは選択できたTバールーフの驚くべく実情

ブロードアロー・オークションズ社「Zoute Concours」オークションに出品されたマセラティ カムシンは、1977年にラインオフしたアメリカ仕様車で、シャシー番号は「AM120US1142」である。マセラティのチーロ・メノッティ本社工場から新車として送り出された際には、「ジアッロ・フライ」と命名されたイエローのボディに「ネロ(ブラック)」の本革インテリアの組み合わせであった。そして、エンスージアスト好みな5速ZFマニュアルトランスミッションを装備していた。

このカラーリングで製造された米国向け車両はわずか7台のみとされ、新車時に「マセラティ・オートモービルズ・カリフォルニア」社へ納入された。

アメリカへの到着ののち間もなく、輸入したディーラーにより当時北米を中心に流行していたTバールーフへのモディファイが施され、左右2ピースの着色ガラスパネルが取り付けられた。一部の古い文献で

「アメリカ仕様のカムシンには、Tバールーフ仕様が選択できた」

とあるのは、じつは現地ディーラー主導による一品製作の改造だったことになる。

また1983年の中古車広告から、当時もイエロー塗装が維持されていたことが確認できるが、その後カリフォルニア州内において、現在のブラック外装へ再塗装されたようだ。

1989年には、オランダ人コレクターのポール・クート氏がカリフォルニア州ラ・ホーヤの「クラシック・モーターズ」からこのマセラティを購入しオランダへと持ち帰る。現地にて、欧州仕様の純正部品を用いた小さなバンパーへと戻すモディファイが施された。

その後のオランダでの所有者は、マセラティの本拠地モデナや隣州のトスカーナを舞台に開催されたマセラティ創立90周年記念式典に、このカムシンとともに参加したジョージ・リッペルツ博士、エンジンのオーバーホールを実施し、長距離ツーリングにも愛用したエンジニアのバート・ファン・デル・ウェイデン氏が名を連ねている。

2015年、このカムシンはドイツに移り、バーデン=ヴュルテンベルク州のオールドタイマー博物館「ヴォランテ」に展示された。この所有期間中、2021年に5速ギアボックスとクラッチがオーバーホールされたと伝えられているが、2023年には再び所有者が変わったとのことである。

市場相場価格と比べれると遥かに高額で落札

近年には、ハンブルクの「シュポルトヴァーゲン・サービス(Sportwagen Service)」社により包括的な機械的改修が完了した。その内容は、ドライブトレーンのリビルドに、リアのサブフレームおよび前後サスペンションとブレーキの分解・更新を実施。またデファレンシャルのリビルドに燃料タンクの洗浄と再塗装、ブッシュとダンパー、ディスクパッドを新品に交換、キャブレターもオーバーホールされた。くわえて全フルード類を交換し、シトロエン由来の油圧システムと電気系統についても徹底的な点検が実施されている。

一方、ほぼオリジナル状態のインテリアは、ドライバーズシートの修復とカーペットの張り替えを含め、美しくリフレッシュされた。結果として内外装、メカニカルパートとも極上のコンディションとなった。

今回出品されたマセラティ カムシン「AM120US1142」について、ブロードアロー・オークション社は

「優れたイタリア製グランツーリスモを愛するものにとっては、この上なく魅力的なカムジンである」

とアピールする一方で、17万5000ユーロ~22万5000ユーロ(邦貨換算約3110万円〜4005万円)という、エスティメート(推定落札価格)を設定した。

そして迎えた10月10日のオークション当日。ベルギーのビーチリゾート、ノッケ・ハイストのゴルフ場敷地内の特設会場で開催された競売では、16万1000ユーロ、現在のレートで日本円に換算すると約2830万円で落札されるに至った。

このハンマープライスは、提示されたエスティメート下限には届かなかったものの、ここ数年にマーケットへと売りに出されたスタンダードのカムシンの市場相場価格と比べれば、たしかに遥かに高額とも言える。

これは、亜流ともいうべきTバールーフが、曲がりなりにもマセラティ正規ディーラーのアレンジで製作されていたことに加えて、その出来ばえが優れていたこと。そして何より、カムジンにはなかなか似合っていると評価されたからと思われる。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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