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林海象監督から譲り受けた劇中車! 映画「濱マイク」のメトロポリタンが幸せに過ごすその後のストーリー

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TEXT: 奥村純一(OKUMURA Junichi)  PHOTO: 奥村純一(OKUMURA Junichi)  FACT CHECK: 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)

  • 大径のスピードメーターがステアリング中央に備わるAMC メトロポリタンのシンプルなデザイン。ダッシュボード左下の3連メーターは追加されたものだ。中央のステッカーは、オーナーの若尾さんが代表を務めるホンダ スーパーカブに特化したカスタムショップのもの
  • 1954年1月にデビューした当時はナッシュとハドソンの2つのブランドで展開されたが、1957年からはAMCブランドとなり、バッジもメトロポリタンの頭文字「M」をモチーフにしたものへと変更された
  • コマ図を頼りに周遊するツーリングへと出発するAMC メトロポリタン。ナビは物心ついた時からクルマ好きという息子さんが担当し、沿道の観客が見守るなか約2時間のドライブへと向かった
  • パルクフェルメに立てかけられた、林海象監督の映画『私立探偵 濱マイク』のポスター。このAMC メトロポリタンこそが、劇中で使用された本物である
  • 映画のパンフレット表紙。主人公の濱マイクに扮する俳優・永瀬正敏が、AMC メトロポリタンのステアリングを握る写真が使われている
  • 映画の劇中で、永瀬正敏が実際に着用したアロハシャツを手にするオーナーの若尾祐基さん
  • AMC メトロポリタンのダッシュパネルに貼られているのは、映画『私立探偵 濱マイク』の劇中で使用された主人公・濱マイクの「探偵証」だ
  • コマ図を使ったツーリングに参加するため、AMC メトロポリタンの助手席にはナビを務める息子さん用のチャイルドシートを装着
  • AMC メトロポリタンのエンジンルーム。イギリスのBMC(オースチン A40)のエンジンとシャシーを使って製造され、1200ccに始まり1956年には1500ccへと排気量が拡大された
  • エンジンルームにある2枚のプレート。1枚はAMCのもので、シャシーのシリアルプレートには製造国を示す「メイド・イン・イングランド」が刻まれている
  • AMC メトロポリタンのリアビュー。コンパクトカーながら4人の乗車定員とラゲッジを確保するためか、スペアタイヤは後部へとケース付きで備わり、アメリカ車らしさが強調されたデザインとなっている
  • 「クラシックカー フェスティバル イン 桐生」を家族で楽しむ、AMC メトロポリタンのオーナー若尾祐基さん。元スバルのデザイナーであったお父上は、この日スバル レオーネで参加

永瀬正敏の銀幕の相棒は米英ハーフの異端児!? チャイルドシートを載せて走る「メトロポリタン」の現在地とは

群馬県桐生市で開催されるクラシックカーイベントで、1台の無国籍感漂うオープンカーが参加者の目を惹きつけました。それは、1990年代に大ヒットした映画『私立探偵 濱マイク』シリーズで、永瀬正敏さん演じる主人公の愛車として活躍したAMC「メトロポリタン コンバーチブル」の劇中使用車そのものです。林海象監督から直接譲り受けたという現在のオーナーに、このレアなクルマのヒストリーを伺いました。

映画『私立探偵 濱マイク』の愛車、ナッシュ・メトロポリタンが群馬のクラシックカーイベントに登場し注目を集める

群馬大学桐生キャンパスで毎年秋に開催される「クラシックカー フェスティバル イン 桐生」は、展示とツーリングという2つの参加方法が楽しめるクラシックカーイベントだ。

コマ図の指示に従い、わたらせ渓谷のワインディングロードへのツーリングへと参加する年式・国籍もさまざまな参加車両60台が、パルクフェルメに所狭しと並んでいる。そのなかに、映画ポスターが立てかけられた1台のクルマが目に留まった。

シリーズ第1作目『我が人生最悪の時』が、単館上映の邦画として興行収入第1位を記録するなど人気を博した映画『私立探偵 濱マイク』のポスターだ。横浜の黄金町界隈を中心に、永瀬正敏扮する探偵・濱マイクの奮闘する姿を描いた林海象監督の作品である。

劇中で主人公の探偵事務所がある「横浜日劇」の前に停められていた主人公の愛車、ナッシュ「メトロポリタン コンバーチブル」(以下、メトロポリタン)は、無国籍感漂う映画の世界観にぴったりの存在感を放っていた。本来、メトロポリタンといえばパステル調のポップなツートーンカラーが多いクルマである。しかし、この劇中車は白と黒のモノトーンに塗られており、探偵という裏稼業のハードボイルドな雰囲気や、黄金町のディープな街並みに溶け込む「少しヤサグレたアメ車感」を見事に演出していたのだ。

現在のオーナーである若尾祐基さんは、ホンダ「スーパーカブ」に特化したカスタムバイク界では知られた人物であるが、芸術大学卒業後は映画美術の仕事をしていた経歴の持ち主でもある。この劇中使用車の管理を任されていた関係もあり、「ずっと乗っていて」と、林海象監督自身の個人所有だったものを譲り受けたのだという。

米国の企画で欧州生産、オースチン製ナッシュ・メトロポリタンは、VW「ビートル」に次ぐヒット作も8年で生産終了

映画のなかでも異彩の存在感を放っていたメトロポリタン。実際にはほとんどお目にかかることのないクルマであるが、その出自は非常にユニークだ。

事の始まりは、当時の米国の「ビッグ3(フォード、シボレー、クライスラー)」が開拓していなかった、これから増えるであろうセカンドカー市場におけるコンパクトカーの需要を、のちにAMC(アメリカン モーターズ コーポレーション)となるナッシュ ケルビネーター コーポレーションが予想したことだった。

その計画は、アメリカ国内よりも人件費や鋼材の安かった欧州に注目し、現地で生産を行うというものだった。開発初期にはフィアット「トッポリーノ」やフィアット「1100」を参考にしたこともあり、フィアットを生産先として委託したいと考えていた。しかし、フィアット側からは「エンジンの供給は可能だが、ボディ生産まで請け負う余裕がない」と返答され、実現には至らなかった。

そこで新たな交渉先となったのが、イギリスのBMC(ブリティッシュ モーター コーポレーション)である。BMCからは「オースチン A40のコンポーネントを使えば、すべての製造が可能である」という返答があり、くわえてイギリス国内では右ハンドルのオースチンブランドでの販売も望めるという副産物もあった。

米国市場のコンパクトカー先駆者として活躍、無国籍デザインで時代を彩ったメトロポリタンの栄枯盛衰……

こうして1954年1月にデビューしたメトロポリタンは、当初ナッシュとハドソンの2つのブランドで展開された。1957年にナッシュがAMCに吸収されてからは、AMCブランドとして販売されることになる。

一時期はフォルクスワーゲン「ビートル」に次ぐコンパクトカーとしてアメリカ国内でも売り上げを伸ばすが、1960年代に入りアメリカでのコンパクトカー市場がフォルクスワーゲンの独壇場となったこともあり、8年間続いた生産は1962年に終了となった。

コンパクトなサイズ感にアメリカ市場を狙ったテールフィンや意匠を盛り込んだ独特のデザインは、映画の世界観と同様に、見事な「無国籍感」を漂わせている。

かつてスクリーンで活躍した名車が、現在は心優しいオーナーと愛息を乗せ、穏やかな時を刻むハッピーエンド

この日イベントに参加していた若尾さんの愛車は、1959年式ということからAMC時代のメトロポリタンとなる。

この日は助手席にチャイルドシートを装着し、家族でクラシックカーラリーを楽しむ姿があった。物心ついた頃からクルマ好きだという息子さんは、イベントに集まった普段見かけないクルマたちに大喜び。ナビゲーターを務める息子さんの様子を見ながら、若尾さんは嬉しそうに目を細めていた。

黄金町の裏路地でハードボイルドな探偵の相棒としてスクリーンを飾ったメトロポリタン。長い年月を経て、いまは心優しいオーナーと小さなナビゲーターを乗せ、秋のわたらせ渓谷をのんびりと走り抜けていく。その姿は、このクルマが迎えたもっとも幸せなハッピーエンドの映画のようであった。

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  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 1960 年生まれ 大学卒業後ベストカーガイド編集部勤務。1990年オートスポーツ誌に転職、1992年F1速報誌(アズエフ)編集長。1995年月刊ビデオマガジン編集部に転職、1996年ベストモータリング編集長(のち局長兼務)。2005年ネコパブリッシング・イベント本部長/4輪編集局長兼務。2015年交通タイムス社に転籍、2020年より現職(総編集局長)自動車の分野に問わずオールマイティだが、特に旧いモータースポーツとクラシックカーに造詣が深い。愛車は1969年DATSUN Fairlady SRL311/YAMAHA RD250ほか

 

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