F1カラーをまとった幻の限定エスプリ、英国オークションに登場
近年、1980年代から90年代に生産された「ヤングタイマー クラシック」が国際オークションで人気を集めています。英国のクラシックカー専門誌主催のショーで開かれた公式オークションに、ロータス「エスプリ ターボ エセックス」が出品されました。生産わずか45台(諸説あり)のF1と同様にあしらわれたカラーをまとった幻の限定車が持つ波瀾万丈な歴史と、競売の結果をお届けします。
F1カラーをまとった限定エスプリの誕生秘話
国際クラシックカーマーケットの趨勢はここ1〜2年で大きく変容し、1980年代から90年代に生産された、いわゆるヤングタイマー クラシックも台頭し始めている。
英国のクラシックカー専門誌Practical Classics誌が主催するトレードショー「The Classic Car and Restoration Show 2026」に際して、英国アイコニック オークショネア社が3月21日から22日にかけてイベント公式オークションを開催した。そこに出品されたのが、ヤングタイマー時代の最初期に特別な存在感を放ったモデル、ロータス「エスプリ ターボ エセックス」だ。
1972年秋のトリノ ショーにて、ジョルジェット ジウジアーロ率いるイタルデザイン社のデザイン スタディとして出品されたロータス「エスプリ」は、3年後の1975年パリ サロンで生産版として正式発表された。それまでのロータス「ヨーロッパ」、とくに最終モデルたるスペシャル(SP)の後継車としての役割も期待されていた。
しかしボディサイズを大幅に拡大し、内外装も豪華さを強調するなど、当時コーリン チャップマンが推し進めていたスーパーカーおよび高級スポーツカー路線へのシフトを、なにより体現したモデルでもあった。
当時のロータスにて相次いで発売されたフロントエンジンの姉妹GTモデル「エリート」および「エクラ」は苦戦を強いられた。いっぽうエスプリは、アストンマーティンに次いで映画「007」シリーズに登場するボンドカーにも選ばれるなど、スーパーカー的な側面でも一定の支持を得ることができた。
正真正銘のスーパーカーとなり得るには、160psの直列4気筒DOHC 16バルブ自然吸気ユニットでは文字どおりの力不足だ。そこでロータスは、当時最新テクノロジーだったターボチャージャーをエスプリに投入することにした。
こうして開発されたターボつきエスプリは、フレームも新しい亜鉛メッキのものに進化した。新設計のリアサスペンションも採用し、2.2リッターのターボチャージャーつきエンジンは210psをマークした。最高速度150mph(約240km/h)、0-60mph加速5.5秒というパフォーマンスにより、少なくともスペックの面ではスーパーカーの仲間入りを果たすことになる。
エセックス石油の崩壊と生産中止の真相
こうして1980年2月、エスプリ ターボはロンドンのロイヤル アルバート ホールにてプレミア公開された。このパーティは、チーム ロータスの最新F1タイトルスポンサーであるエセックス石油とのコラボレーション樹立を発表する場ともなっていた。エセックス石油は、1970年代のブリティッシュ アメリカン タバコ社、および日本のオリンパス光学に続くチーム ロータスの新たなスポンサーである。
最初の100台のエスプリ ターボは「チーム エセックス ロータス」のレーシングカラーで販売されることも同時に発表された。しかし、この特別仕様車はわずか45台が完成した段階で生産中止となってしまった。
その理由のひとつは、同時代のフェラーリ「308GTB」より約900ポンド(約19万円)も高価な、2万950ポンド(約446万円)という価格設定のせいで販売が不振だったことだ。
さらに、怪しげな石油国際投機・転売ビジネスをひとりで展開していたエセックス石油の社主、デーヴィッド シームが1981年4月にクレディ スイス銀行への詐欺容疑で逮捕されてしまった。これにより同社はほどなく解散する。当然のごとく、チーム ロータスとのスポンサーシップも1981年シーズン閉幕をもって破断となったことも、途中で生産を終えた大きな要因のひとつとなったのだ。
徹底的なレストアを受けた超希少モデルの行方
エセックス石油とチーム ロータスのF1GP活動に激震が走るかたわら、スタンダード版のエスプリ ターボは順当なヒットを博することになった。さきごろアイコニック オークショネア社主催のオークションに出品されたのは、わずか22台しか製造されなかった右ハンドル仕様のエセックス エスプリである。限定モデルとしてのシリアルナンバーは17番で、今なお45年前の生産当時と変わらない存在感を放っている。
1980年シーズンのF1GPにおいて、エリオ デ アンジェリスおよびマリオ アンドレッティが操っていたロータスF1マシンと同じ、ブルーメタリックとクローム、そしてレッドのカラーリングは良好なコンディションを保っており、鮮やかなオールレッドのレザーインテリアと素晴らしいカラーコーディネートを披露する。

また、正しいスイッチ類および日本のパナソニック社製純正ステレオを収めた、航空機を思わせる仕立てのセンターコンソール、そして幅広スプリットリムのコンポモティーヴ社製純正アロイホイールなども、新車時からそのまま残されている。
この車両に添付されたヒストリーファイルは、控えめにいっても非常に充実したものだ。このエセックス エスプリのような歴史的にも重要な車両に相応しい内容となっている。
まず新車としてラインオフしたのち、英国スタッフォード州のロータス正規ディーラーであるランドルズ社を介して、Dプレストンなる人物に新車として納車された。そののち、40年近い時を彼とその家族とともに過ごしたことがドキュメント類に記されている。
実質二代目となる現在のオーナーは、このエスプリ ターボを受け取ってから約18カ月の時間と4万ポンド以上の経費をかけて、自身の厳格な基準に基づいたレストア作業を行った。
2024年11月に実施された最新のサービス作業には、ブレーキキャリパーやターボのウェイストゲート、ドライブベルトを含むブレーキシステムの完全オーバーホール、カムと点火タイミングのリセット、スパークプラグの交換が含まれる。
落札者に引き渡されることになっていたドキュメントファイルには、オリジナルのオーナーズウォレットとサービスブック、オリジナルのパンフレット、ロータス社のアーカイブ文書、そして2027年1月まで有効な現行のMoT車検証明書が収められている。
エセックス エスプリは総生産台数45台、現在の英国内で登録されて走っている個体はわずか7台という超レア車ゆえに、マーケットに売りに出される機会はきわめて少ない。いわゆる相場価格を算定するのは困難だが、アイコニック オークショネア社では今回の出品にあたって、過去の数少ない販売実績より少し安価な9万ポンド〜11万ポンド(約1917万円〜2343万円)のエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
ところが、バーミンガムのNECで行われた競売では、現オーナー側が希望したリザーブ(最低落札価格)に至るまでビッド(入札)が届かなかったようで、残念ながら流札に終わってしまった。
※為替レートは1英ポンド=214.16円(2026年5月時点)で換算



























































































