スプーンのホンダ「CR-X SiR」デモカーは、エンジンを純正のまま残し、足まわりとECUで“曲がる”を突き詰めた痛快FFマシン!
無限のホイールがアイコニックなグリップ仕様のホンダ「CR-X SiR」。一見すると本格的なチューンドだ。ところが、エンジンはほぼ純正のまま残されている。チューニングメニューの主役は足まわりとECUで、狙いはただひとつ“カキーンと曲がる”コーナリングだった。名門ホンダチューナー「スプーン」が仕立てたこの1台を紹介する。
(初出:ヤングバージョン1993年3月号)
足まわりとブレーキ、無限ホイールで固めた走りの土台が最大の見どころ
このクルマの決定打は足まわりにある。スプーンが組んだのは、自社製のVS10 Kダンパーキットだ。スプリングレート(サスペンションのバネの硬さを表す数値)はフロントが6.4kg/mm、リアが4.3kg/mmで、ウレタンブッシュまで含めて当時14万8000円という構成だった。スプリング単体なら3万6000円、ブッシュは1万2000円である。ベースとなったのはCR-X SiR、型式はEF8だ。1595ccのB16A型DOHC VTEC(エンジンの回転数に応じてバルブの開閉を切り替える機構)を積む、5速MT専用の軽量FFである。
ブレーキにはVS5パッド(フロント2万4000円、リア2万2000円)を組み、フルードにはカストロールのDOT5を入れる。LSD(左右輪の回転差を抑えて駆動力を路面へ伝える装置)は純正のビスカス式を残し、リアスタビライザーはレース用に交換している。前後にはストラットタワーバー(左右のサスペンション取り付け部を結んでボディの剛性を高める補強パーツ/フロント1万6000円、リア1万4000円)を渡した。タイヤはダンロップ製で、サイズはフロントが205/55-15、リアが195/55-15の15インチ。ホイールには無限のNR-10Rを前後とも6J×15で合わせ、軽快な足元に仕立てている。

エンジンはほぼノーマル、ECUとVTECコントローラーで反応を引き出す
エンジン本体への加工は、意外なほど少ない。手を入れたのは純正交換タイプのエアクリーナー(当時1万1000円)くらいで、吸気系と排気系はほぼノーマルのまま残されている。マフラーも純正を使う。リッターあたり100psを叩き出すB16Aの素性を信じた構成だ。
反応を引き出す主役は、電子制御の領域にある。スプーン製のVC7Eスポーツコンピュータ(エンジンを統括するECU)は、純正を下取りに出せば8万円で手に入った。これにVTECコントローラー(VTECの切り替わりを制御する電子パーツ/当時4万4000円)を組み合わせ、ひと味違うフィーリングを引き出している。ちなみに、エンジンルームの見せ場として、アルミ製のオイルフィラーキャップ(当時6500円)がワンポイントで添えられていた。
走らせてみると“カキーンと曲がる”、軽量FFが見せた鋭い回頭性
取材スタッフが走らせてみると、何よりも「とにかくよく曲がる」点が際立つ。グリップを生かして丁寧に駆け抜けても、大きめのアクションで積極的に振り回しても、どちらの乗り方にも応えてくれる。あえて細くしたリアタイヤの効果もあって、テールが流れた瞬間に素早くカウンターが決まる。ステアリングから路面の情報がよく伝わるため、コントロールしやすい。
フロントショックはストロークをたっぷり取ってあり、リアとのバランスのよさも光る。ブレーキは走り始めの1周ほどは効きすぎに感じるほどだ。ただ、温まってくると安定し、コントロール性も増す。タッチはカチッとして節度がある。エンジンは低中速から元気に反応し、コーナリングをいっそう刺激的なものにする。突き上げやはねも上手に抑え込まれ、バンピー(路面の凹凸が大きく、車体が上下に揺れやすい状態)な路面でショックをきっちり吸収する様子は、ノーマルとは違うところだ。
ドライバー目線のインテリアと、エンジンは素のままで曲がる意外性
このクルマの面白さは、ドライバー目線で突き詰めた室内にも表れている。36φ(直径約36cm)のステアリング、ジュラコン製のシフトノブ、240km/hまで刻まれたメーターが組み込まれ、コーナーへ全神経を注ぐための空間に仕立てられていた。
そして最大の意外性は、これだけ本格的な足まわりを与えられながら、エンジンがほぼ素のままという点にある。パワーで押すのではなく、車体の動きと電子制御だけで“カキーンと曲がる”フィーリングを引き出す。軽さとよく回るB16Aを土台に、足まわりとセンスで楽しさを最大化した1台だといえる。
【AMWノミカタ】
今回紹介したスプーンのCR-X SiRデモカーは、AMWを運営する交通タイムス社がかつて発行していたチューニング誌『ヤングバージョン』1993年3月号に掲載された1台だ。記事を読み返してみると、馬力競争が過熱していた当時にあって、エンジンをほぼ純正のまま残し、足まわりとECUだけで走りのレベルをここまで底上げできたのは、車重1トンを切るボディにリッターあたり100psを誇る名機B16Aを搭載したCR-Xならではだ。リアタイヤを1サイズ細くしてまで回頭性を引き出すセッティングは、チューニングが足し算ばかりのものではないことを証明している。派手にパワーを追い求めるより、曲がる楽しさをどこまで突き詰められるか。スプーンが示したこの答えは、30年以上を経たいまも色あせていない。


































