グッドウッド時代のファントム物語
ロールス・ロイス・モーターカーズは、2025年に最上位モデル「ファントム」誕生から100周年を迎えます。ファントムは現在8代目まで続き、一切妥協することのない比類なきドライビング体験は最新モデルまで継承されています。そこで、AMWでは記念すべきファントムの歴史を3回に分けて紹介。最終章はBMWの傘下に入り、グッドウッドへ工場を移したところからはじまります。
ファントムが2003年元旦に復活を果たす
グッドウッドの新しいロールス・ロイス本社でブランドが再始動した際、その最初のモデルとして「ファントム」の名が浮上していた。伝説的なロールス・ロイスのデザイナーであるジョン・ブラッチリーに相談し、彼が承認したファントムのデザインコンセプトには、先代から受け継いだ特徴的な要素が含まれていた。これらは、フロントホイールが前方に大きく張り出したロングホイールベース、フロントオーバーハングを最小限に抑えたデザイン、サイドに沿って広がる金属部分で構成されたロングボンネット、フロントウインドウピラーに向かって上昇するドアエッジなどが含まれていた。
グッドウッド時代初となるデザインディレクターのイアン・キャメロンは、待望の新モデルのインテリアデザインを手がける専門チームを結成した。彼らに与えられた任務は、過去のファントムの雰囲気とコーチビルディングの伝統的な高品質素材を、完全に最新の方法で表現することだった。
2003年1月1日午前0時1分、最初の「ファントムVII」が新しいオーナーに引き渡された。それまでのファントムとは異なり、このモデルはコーチビルドではなく、単一設計のスペースフレームボディを採用し、完全に自社内で製造された。しかし、熟練した職人チームの手作業で1台1台が製造されたという点では、伝統とのつながりが保たれている。さらに、同社のビスポークプログラムにより、ファントムは実質的に白紙の状態から顧客がビジョンや希望を実現することが可能となった。
数々のユニークなビスポークモデルが登場
13年間にわたる歴史の中で、ファントムVIIはロールス・ロイスを世界屈指の超高級車メーカーとして、また、最高峰のクルマとして確固たる地位を築いた。しかし、同社のデザイナーやエンジニアたちは、先代たちと同様に、完璧とはつねに進化し続けるものであることを理解していた。つまり、ファントムには完成という概念はないのだ。
2017年、ロールス・ロイスは「ファントムVIII」を発表した。これは、ファントムVIIで使用されたオールアルミニウム製スペースフレームを進化させた「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」に基づいて製造された初のロールス・ロイス車であり、グッドウッドで製造される将来のクルマすべてを支える設計となっている。
ファントムVIIIは、ビスポーク注文の究極のキャンバスとなるように設計された。この点を考慮し、ギャラリー(ダッシュボードの全面に広がる途切れることのないガラス)を搭載した唯一のロールス・ロイスモデルとなった。ギャラリーの背後には、顧客が注文した芸術作品やデザインを展示することができる。この一点に焦点を絞ったことで、ファントムはこれまでに手がけた中で、最も技術的に意欲的で挑戦的なビスポークプロジェクトの対象となった。
「ファントム シントピア」「ファントム オリベ」「ファントム Inspired by チンクエ・テッレ」などの特注車は、いずれもロールス・ロイスのクルマにはかつてなかった機能、素材、エンジニアリングの革新を取り入れている。それぞれがユニークで、二度と製造されることのない唯一無二の作品となっている。