数々のレースヒストリーが残された1台
1958年9月14日、イタリア・ピエモンテ州のアスティにあるタイトでテクニカルな「ロッコ・コッコナート・ヒルクライム」で「0933GT」をデビューさせたトゼッリは、同じようなフェラーリ勢がひしめく中、総合5位の成績を収めた。
同年9月28日の「ポンテデチモ・ヒルクライム」では総合7位に終わり、10月5日の「トリエステ・オピチーナ・ヒルクライム」では脱落したが、10月10日にはようやくマシンに慣れ、アオスタの「ピーラ・ヒルクライム」で「0933GT」を初勝利に導いた。
そして翌月には、トゼッリと5度のF1世界チャンピオンに輝いたファン・マヌエル・ファンジオのマネージャーを長年務めたマルチェロ・ジアンバートーネが運営する、アルゼンチンおよびイタリアのレーシングプログラム「スクーデリア・マヌニーナ」のゲストとしてベネズエラGPに参加することになった。
このイベントは、伝統的なサーキットレースとしての「グランプリ」ではなく、いかにも当時の南米らしい、整備不良の未舗装路を走る総行程754kmの拷問のようなロードレースだった。
しかしトゼッリと「0933GT」は、当時の「スクーデリア・フェラーリ」ファクトリードライバー、ジャン・ベーラを筆頭とする250GT TdF勢の中で、総合4位に割って入るという目覚ましい戦果を残すに至ったのだ。
そののち、「0933GT」はベネズエラに残り、南米で新たな歴史を歩んで行くことになる。
南米での大活躍ののち、フランスで当局に押収されてしまう
ミーロ・トゼッリとともに、1958年の「ベネズエラGP」にて値千金の総合4位入賞を果たした「0933GT」は、その後ベネズエラのカラカスでフェラーリのエージェントを務めていたリノ・ファイエンに売却。彼は直後に、同じくベネズエラ人のジェントルマンレーサー、マウリシオ・マルコトゥッリにこのマシンを仲介することになる。
新オーナーのマルコトゥッリは、1959年1月から10月にかけて「ベネズエラ自動車クラブ」のエントラントとして、「0933GT」を少なくとも6戦、トップクラスのスポーツカーロードレースに出場させた。
ほぼ全員がファイエンから供給されたコンペティション用フェラーリをドライブしていた、ベネズエラの優秀なアマチュアドライバーたちのグループの中で、1959年シーズンにおけるマルコトゥッリの最低記録は2位だった。シャシーナンバー「0933GT」が2代目チャンピオンに輝いたのは8月16日のことで、マルコトゥッリは128kmの「グラン・プレミオ・デ・マラカイボ」を52分以内で完走した。
勝利よりも安定した走りが重要であることが多く、マルコトゥッリは1月25日の「カラカス~クマナ」480kmのオリエンテ・プレミオ、6月7日の「シウダー・デ・カビマス」1660kmの過酷なプレミオ、8月2日の「マラカイ~クマナ~マルガリータ」481kmのレースなど、記録された6レース中4レースで準優勝に終わっている。
わずか12カ月の間に2人のチャンピオンに仕えることになった
とくに9月20日の「グラン・プレミオ・デ・オヘダ」では、スペイン人ドライバー、フリオ・ポラを抑えて2位に入り、そのシーズンのロードレース選手権を制した。こうして「0933GT」は、わずか12カ月の間に2人のチャンピオンに仕えることになったのだ。
マルコトゥッリは「0933GT」をベネズエラで 「ND0943」として登録し、1959年末にウーゴ・トーザに売却された後もこのプレートが保持された。
1960年シーズン、トーザとコ・ドライバーのシルヴァーノ・トゥルコは、世界スポーツカー選手権第1戦の「ブエノスアイレス1000km」に、このマシンをエントリーさせた。世界選手権に参戦した数少ないTdFのうちの1台である「0933GT」は、GTクラス3位、総合11位という好成績を収めた。
さらにシャシーナンバー「0933GT」はアルゼンチンとコロンビア、ベネズエラの3カ国で開催された耐久レースにも参戦し、カラカスからボゴタへのラリーで記録された最後のレースでは、トーザが妻フランカと運転を分担したことも有名なエピソードとなった。
1961年初頭、リノ・ファイエンはトーザからこのマシンを再び引き取り、ベネズエラからフランスに持ち帰ろうとした。おそらくヨーロッパのプライベーターに売却するつもりだったのだろう。
しかし、まだまだ有望だったはずの「0933GT」の競争力と将来は、ファイエンとフランスの税務当局との間の係争によって突然の中断を余儀なくされてしまった。フランス税務当局は、パリのオルリー空港の駐車場でベネズエラのナンバーをつけたまま、この250GT TdFを押収してしまったのだ。



























































































