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フォード初代「マスタング」は大雑把だけどヒロイック! アメリカ人の心の友は日本人にとっても魅力的でした【旧車ソムリエ】

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 神村 聖(KAMIMURA Satoshi)

4.7リッターV8は意外なほどスムーズな走り出し

この時代のアメリカ車は、モデルイヤーごとにマイナーチェンジが施される事例も多かったが、ファーストモデルから大人気を博していた初代マスタングは、「1967年モデル」として初めて軽度のフェイスリフトが施され、あの映画『ブリット』(1968年)にてスティーブ・マックイーンが走らせた「GT390」と同じマスクとなった。

この「旧車ソムリエ」取材にあたり、夢のクルマを共同購入・所有するという画期的なプロジェクトを展開して大成功を収めているスタートアップ企業「RENDEZ-VOUS(ランデヴー)」からご提供いただいたマスタングは1968年式のハードトップ・クーペで、1967年モデルと同じ顔を持つ。また、左右フロントフェンダーにはスモールブロック最大の「302(立方インチ=約5.0L)」のバッジが取り付けられているものの、長大なエンジンフード下に鎮座しているのは289立方インチ、つまり4.7LのスモールブロックV8エンジンである。

大径の4バレルキャブレターを装着していることから、アメリカ車については門外漢である筆者はスロットルを少しだけ煽りつつ始動を試みたのだが、RENDEZ-VOUSのスタッフいわく「本来はスロットル全閉のまま始動するまでセルを回し続けるのがベター」とのこと。いわれたとおりに始動してみると、かなり長めのクランキングのあと、派手なサウンドとともにあっけなくV8エンジンが始動した。

そして、ガチャガチャした手応えの大きなATセレクターをつかんでDレンジに入れると、一瞬のちに「コン」というかすかな音とともにエンゲージ。スロットルをジワッと踏み込めば、意外なくらいにスムーズに走り出す。

タコメーターの備えがないため正確な回転数は分からないながらも、低回転域の「デロデロデロ」という、いかにもこの時代のアメリカンV8らしい排気音がだんだんと連続音の「デロロロロッ」へと変わってくると、289エンジンはみるみる活気をみなぎらせてくる。

旧いオートマチック変速機のトルコンスリップにトルクを吸収されてしまうものの、そこはスモールブロックとはいえ4.7Lの大排気量。街中の流れをリードするのは造作もないことである。むしろ、スロットル操作に対するレスポンスはちょっと過敏ともいえるもので、気をつけていないと後輪がムズムズと振れそうになるほどである。

すべてが大雑把、だけどヒロイック

とはいえ最大の難敵となったのは、新車当時からオプションだったパワーステアリングである。操舵力が軽いこと自体は良いものの、ギアレシオはノンパワー並みにスローなうえに、遊びは左右とも拳ひとつ分以上と、無反応域が非常に大きい。だから、慣れないうちは真っすぐ走らせるのも苦労するし、アスファルト路面に深いわだちでもあろうものなら、それを修正しながら進行方向を定めるにも、かなりの神経を遣わざるを得ない。

ところがしばらくドライブしていると、ブラブラ・グラグラであるはずの舵角が、なぜか思ったとおりのラインに乗せることができるようになってくるのだから、人間の「慣れ」というのは不思議なものである。

取材日は寒かったけれど、V8サウンドを聴くために窓は全開。ドア上縁に肘をかけつつ、左手の親指と人差し指でつまむようにしてステアリングを握って走らせていると、すっかりこの世界観に馴染んでしまっている自分に気がつく。

たしかに、ボディ剛性なんて言葉はなかったかのように全身ユルユル。路面が荒れると、リアサスはバタバタ暴れそうになり、けっこうチープなつくりの内外装ともガタガタ・ギシギシと揺れる。さらにドアの閉まる音だって「バシャン!」という、もともとが安価な大衆車であったことをうかがわせるもの。

でも、このヒロイックなカッコよさに触れ、V8エンジンのトルク感に酔いしれていると「だからどうした?」という心持ちにもなってくる。

今なお絶大な人気を誇る初代マスタングは、誰が何と言おうと生まれながらのヒーロー。今回のテストドライブで、その片鱗を思い知ったのである。

■RENDEZ-VOUS
https://app.rendez-vous.tokyo

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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