一度はアメリカへと渡り再びヨーロッパに戻ってきた個体
RMサザビーズ「Cliveden House 2025」オークションに出品されたマセラティ3500GTスパイダーは、1963年型の燃料噴射版「GTI」。マセラティのファクトリー記録によると「AM101 1453」のシャシーNo.が割り振られ、1963年2月に製造されたとのことである。
ZF社製の5速MTが組み合わされたこの個体は、「ネロ(Nero:黒)」のボディに、明るいベージュの「チンギアーレ(Cinghiale:イノシシ革)」のインテリアのコンビで、ミラノのアントニオ・トゥラーティなる人物に納車された。
2代目オーナーのもとに渡ったのちもミラノに留まるが、その後スウェーデンに輸出され、ウノ・リンマーク氏によって15年以上にわたり愛された。その後イギリスに輸出され、シルバーのボディに赤革のインテリアに変更されたといわれている。
1988年、この個体は当時のオークションに出品され、英国デヴォン州ノースデヴォン在住のジャック・レヴィ氏によって落札・登録される。彼はマセラティのスペシャリスト、ビル・マクグラース氏にレストアを依頼したのち、1995年に売却。新たなオーナーとなったのは、北米ニュージャージー在住のローレンス・アウリアナ氏だった。
アメリカ・コネチカット州スタンフォードでの生活を経て、イギリス・ハダーズフィールドを拠点とする新オーナーに譲渡された。2008年1月に再び売却され、新しい所有者はアメリカ・テキサス州ヒューストンに持ち帰る。
さらにシャシーNo.#1453は、ウィーンに居を移す。オーストリアの首都滞在中、ヴォーゼンドルフの「フランツ・クラシック・カーズ(Frantz Classic Cars)」社が2度目の修復を開始。オークション出品に際して添付されるドキュメントファイルで閲覧可能な請求書によると、エンジンのリビルドも含めて1万247ポンドの費用を要したことが分かる。
その後、モデナの「カロッツェリア・アウトスポルト(Carrozzeria Autosport)」がボディワークの準備と再塗装を行い、こちらには7万8862ユーロが支払われた。
2018年にイタリアでオリジナルカラーに再塗装
2018年から2019年にかけて、3500 GTIはクラシック・マセラティを得意とするモデナの工房「バッケリ・アンド・ヴィラ(Bacchelli & Villa)」社に持ち込まれ、現在の状態のように新車時以来のオリジナルカラーに戻されたのち、2022年に今回のオークション出品者でもあるイギリス人の現オーナーが手に入れた。
そして、2024年5月から11月にかけて、再び「マクグラース・マセラティ」に戻され、インレットマニフォールドやウォーターポンプ、排気システムが再構築されるとともに、ハーネス(配線)が調整され、フロントサスペンションやトランスミッション、ブレーキ、ステアリングシステムも刷新。この時の総工費は4万3671ポンドに上った。
なお、エンジン番号は再刻印されているようにも見えるようだが、「マセラティ・アルキヴィオ・ストーリコ(Maserati Archivio Storico)」により、内部番号がマッチングナンバーであることが確認されているとのことであった。
RMサザビーズ欧州本社では「燃料噴射システム、ZFトランスミッション、ディスクブレーキ、ボラーニのワイヤースポークホイールを装備したこの車両は、マセラティ3500 GTI スパイダーのなかでももっとも魅力的な仕様のひとつです。アルミニウム製ハードトップと充実した履歴書類が付属している点も、その魅力をさらに高めています」とアピールするいっぽうで、40万ポンド~50万ポンド(邦貨換算約8120万円〜1億1500万円)という、ここ数年の国際マーケットにおける3500GTスパイダーの数少ない販売事例から導き出したと思しきエスティメート(推定落札価格)を設定した。
そして、クリブデンハウス内の特設会場で行われた競売でもビッド(入札)が順調に伸びたようで、終わってみればエスティメートの範囲内に収まる43万2500英ポンド。すなわち、現在のレートで日本円に換算すると約8530万円という、けっこうな高価格で落札されることになったのである。































































































