ベンツ博物館で展示保管されるはずがまさかの廃車
このブルーワンダーは1954年半ばから、ダイムラー・ベンツが再びレースから撤退した1955年秋まで、ヨーロッパの道路や高速道路でも注目の的だった。パドックでもスターとなり、レーシングカーよりも多くの観客を集めることが多かった。300SLR/W196Sとこのブルーワンダーは大西洋を越えて輸送され、すべての展示会で大きな感動を巻き起こした。
1957年後半、このブルーワンダーが故郷に戻ってきたとき人々は驚いた。少し傷んでいたものの、全体的には良好な状態だったのだ。そして魅力的なブルーワンダーは300SLR(W196S型)とともに、メルセデス・ベンツ博物館が最後の安息地となるはずだった。ところが、この2台の組み合わせは老巧化している古い博物館の床には重すぎて、展示することができなくなってしまったのである。こうして誇り高きブルーワンダーは修理不能になるまでテスト部門で使用され、最終的に1967年12月にルドルフ・ウーレンハウト(当時は技術顧問)の承認で廃車され、世界に1台の高速レーシングカー・トランスポーターはその姿を消すことになった。
図面や資料はなくても情熱と努力でブルーワンダーレプリカを製作
その後、レプリカとしてブルーワンダーを復活させる計画がメルセデス・ベンツ社内で立ち上がる。ところがメルセデス・ベンツのモータースポーツ史の証人であるこのブルーワンダーに関する図面や文書は、ワンオフゆえほとんど存在しなかったのだ。それゆえこのレプリカ計画は、かつてのブルーワンダーを産み出す以上の労力と時間が必要となったのである。レプリカ製作作業は、徹底的な社内調査を行い、わずかな手がかりをひとつずつ綿密かつ詳細にまとめていくことになった。
このようにしてダイムラー・ベンツ社の復元プロジェクトは、7年間を費やして2001年に無事に完了。メルセデス・ベンツ・クラシック・アーカイブとして貴重でユニークなブルーワンダーが蘇った。
ただ安全性の理由から、オリジナルから小さな変更が承認されている。たとえばプロペラシャフトとデファレンシャルの間のディスクブレーキは廃されている、また前輪のドラムブレーキは、1989年式SLのディスクブレーキシステムに変更されている。しかし、エンジン出力、アクスル構成、トランスミッション間隔、外寸法、布張りバケットシート、タコメーターの位置、アクセスレールの寸法など、その他の技術データと特徴はすべてオリジナルを正確に再現された。
レプリカが披露されたとき、オリジナルの車両を知る人物は「これが戻ってきて本当に素晴らしい」といった。彼らの声からは、長い間恋しかったものが再び帰ってきたことを嬉しく思っていることがひしひしと伝わってきたという。現メルセデス・ベンツミージアムのコレクションルームのギャラリーで、再び「ブルーワンダー」と出会うことができる。

オリジナルブルーワンダー・テクニカルデーター
<パワーユニット>
水冷直列6気筒 直噴エンジン
排気量:2998cc
ボアxストロ-ク:85x88mm
最大出力:192ps/5500rpm
最大トルク:25.8mkg/4700rpm
圧縮比:8.3:1
電気システム:12V
燃費:25L/100km
<パワートレイン>
クラッチ:ダイムラー・ベンツ製単板乾式
ミッション:インボリュートプロファイル付きフルシンクロナイズド4速トランスミッション(変速比:1速3.44、2速2.29、3速1.53、4速1.0、後進4.69)
駆動方式:ハイポイドギア付きリアアクスル・後輪駆動<足まわり>
フロントアクスル:ウィッシュボーンとコイルスプリング
リアアクスル:キャリア用の低く独立したピボットポイントを備えたリアスイングアクスル
トーションバースタビライザー
ブレーキブースター付き4ドラムブレーキ
プロペラシャフトディスクブレーキ
ホイール:5.5K✕15
タイヤサイズ:7.60×15<ボディサイズほか>
ボディサイズ:全長6750mm✕全幅2000mm✕全高1750mm
ホイールベース:3050mm
フロントトレッド:1.480mm
リアトレッド:1.525mm
車重:1865kg(乾燥重量)/総重量2100kg(走行準備完了時)
燃料タンク容量:160L
最高速度:約170km/h



















































