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メルセデス・ベンツ300SLのエンジンを搭載した激速トランスポーター「ブルーワンダー」

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TEXT: 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)  PHOTO: Mercedes-Benz/妻谷コレクション(TSUMATANI Collection)

  • 高速レーシングカー・トランスポーター「ブルーワンダー」。写真は現メルセデス・ベンツミュージアムコレクションルーム2:キャリアのギャラリーに展示
  • 高速レーシングカー・トランスポーター「ブルーワンダー」。写真は現メルセデス・ベンツミュージアムコレクションルーム2:キャリアのギャラリーに展示。荷台には、エアブレーキ付きのメルセデス・ベンツ300SLR/W196Sを積載
  • 直噴300SLガルウィング/W198エンジンは実車同様にフロントアクスルのすぐ上に、つまり、運転席後部に搭載された。しかも、300SLガルウィング/W198オリジナルの3L 直列6気筒の出力は、今後の過酷な作業を考慮して、215ps/5.800rpmから192ps/5.500rpmに抑えられた
  • リアのマッドガードには誇らしげに「最高速度105 m.p.h.」と塗装された。これは最高速度170km/hに相当し、当時としてはハイスピードだといえる
  • 中央にメルセデス・ベンツのスターが付いたラジエーターグリルは当時の市販スポーツカーSLを彷彿させている。写真は正面カットで現メルセデス・ベンツミュージアムコレクションルーム2:キャリアのギャラリーに展示
  • 特筆の2層に湾曲したリアウインドウはガラス職人の誇り高き功績を物語っている。このため、300SLR/W196S及びF1カー/W196Rのフロントエンドがまるで手袋の中にぴったりと納まった
  • 特筆の2層に湾曲したリアウインドウはガラス職人の誇り高き功績を物語っている。このため、300SLR/W196S及びF1カー/W196Rのフロントエンドがまるで手袋の中にぴったりと納まった
  • このブルーワンダーのインテリアは長距離の快適さを考慮して設計された。当時のレーシングカーやスポーツカーに使われていた典型的なブルーチェック模様の生地がシートや背もたれの表面、ドアパネルに採用
  • 大型のステアリングホイールの後ろには、レブカウンターとスピードメーターがドライバーの視界内に最適に配置されている。最高速度は140km/hと刻まれている
  • アクスル間の窪みには、両側にスペアホイールが1つずつ収納され、斜めに固定されているため、必要に応じて素早く取り出すことが可能。非常に巧妙なアイデアとして、スペアホイールのハブキャップに三脚がしっかりと取り付けられた
  • ブルーワンダーのリアライトと方向指示器のクローズアップ。300SLR/W196Sを彷彿とさせている
  • ブルーワンダーのリアライトと方向指示器は300SLR/W196Sを彷彿とさせている
  • このブルーワンダーのホイールのガイドの間に4本の軽量アクセスレールが車両に収納。地面に降ろす2本を荷台の2本に連結固定し、地上から荷台へと押し上げられた車輪は、荷台に固定されたU字型レールに輸送中でもしっかりと収納された
  • ブルーワンダーのホイールのガイドの間に4本の軽量アクセスレールが車両に収納。地面に降ろす2本を荷台の2本に連結固定し、地上から荷台へと押し上げられた車輪は、荷台に固定されたU字型レールに輸送中でもしっかりと収納された。ピットのない主要なロードレースでは、アクセスレールは即席のワークショップランプとしても機能した(たとえば、1955年にシチリア島で開催されたタルガ・フローリオ)
  • 1955年8月7日、クリスチャンスタッドで開催されたスウェーデングランプリで撮影。実際のメルセデス・ベンツ300SLR/W196Sが積み下ろしされるカット
  • ブルーワンダーは1954年半ばから、ダイムラー・ベンツが再びレースから撤退した1955年秋まで、ヨーロッパの道路や高速道路でセンセンセーションを巻き起こした。パドックでもスターとなり、レーシングカーよりも多くの観客を集めることが多かった。写真は1955年にシチリア島で開催されたタルガ・フローリオ。荷台には300SLR/W196S)が配置されている
  • ブルーワンダーのドアにはRennabteilung(レース部門)と明示された。写真はレースで活躍中のブルーワンダー
  • ブルーワンダーのドアにはRennabteilung(レース部門)と明示された。写真はレースで活躍中のブルーワンダー
  • 写真はブルーワンダーを先頭に1955年8月7日のスウェーデンGPに参戦するためにアペンラーデ(デンマーク)から移動するメルセデス・ベンツ大部隊。荷台には300SLR/W196S搭載。このスウェーデンGPでも300SLR/W196Sはエアブレーキ付きを使用
  • 従来の商用車のように運転席と荷台の間には仕切りがなく、トランスポーターの本体は単一の金型から鋳造された。高級2ドア300S/W188のX字型チューブラーフレームは前後に延長され、メルセデス・ベンツのレーシングカーを荷台に納める十分なスペースを確保。写真は斜め正面からスタジオ撮影
  • 従来の商用車のように運転席と荷台の間には仕切りがなく、トランスポーターの本体は単一の金型から鋳造された。高級2ドア300S/W188のX字型チューブラーフレームは前後に延長され、メルセデス・ベンツのレーシングカーを荷台に納める十分なスペースを確保。写真は斜め後方からスタジオ撮影
  • 高速レーシングカー・トランスポーター「ブルーワンダー」。写真は2001年に滑走する「ブルーワンダー」のレプリカ

世界初の直噴エンジンをミッドマウント

第二次世界大戦後、レースから遠ざかっていたメルセデス・ベンツは、1954年のF1に挑戦することを決めました。エンジンの開発コードナンバーW196。このユニットは通称「300SLR」と呼ばれるスポーツカー選手権用のマシンW196Sにも搭載されました。それと同時に1955年のモータースポーツシーズン用の高速レーシングカー・トランスポーターをワンオフで製造したのです。その名前は「ブルーワンダー」。じつはこの高速レーシングカー・トランスポーターには、初めてガルウィングドアを採用した300SL(W198型)と同じ3L直6エンジンが搭載されていたのです。

GPレース復活のために考案された速い積載車開発

1952年、ダイムラー・ベンツ取締役会は2年後の1954年にGPレースに復帰すると決定した。1952年にすでに大成功を納めた同社のレーシング部門は社内でW196と命名されたGPカーの計画に着手。これと並行して、サーキットで整備や修理を行うためのワークショップを装備し、レーシングカーを高速輸送するためのトラックを製造することが不可欠となった。

レース監督であるアルフレッド・ノイバウアーは、レーシングカーの高速輸送車のアイデアをテスト部門の熟練エンジニアであるHägele(ヘーゲレ)に託し、最後に励ましの言葉は「何か良いものを作れ!」であった。

高速レーシングカー・トランスポーターに要求されたことは「GPカーや300SLR/W196Sを積載した場合でも非常に速く走る」と明快であった。そのためには十分なパワーと同等の強力なブレーキが必要であった。エンジニアのヘーゲレは最終的に、高級2ドア300S(W188型)のX字型チューブラーフレーム、300SLガルウィング(W198型)の高性能エンジン、そして「ポントン」こと180(W120型)のボディパーツを組み合わせることを開発部長のルドルフ・ウーレンハウトに提案。ゴーサインが出されテスト部門で製作作業に着手する。

職人技とマシン搭載への追求から作られた未来的なデザイン

高速レーシングカー・トランスポーターの開発者たちは外観と技術的な完璧さの両面において、じつにユニークなクルマを生み出した。

フロントアクスルの前方にキャブは配置し、道路を覆い被さるように突き出していた。従来の商用車のような運転席と荷台の間には仕切りがなく、トランスポーターの本体は単一の金型から鋳造された。高級2ドア300S/W188のX字型チューブラーフレームは前後に延長され、メルセデス・ベンツのレーシングカーを搭載できる十分なスペースを確保。300SLガルウィング(W198型)のエンジンはフロントアクスルのすぐ上に、つまり運転席後部に搭載された。

エンジンは300SLガルウィング(W198)の直噴3L直列6気筒であったが、過酷な移動作業を考慮してオリジナルの215ps/5800rpmから192ps/5500rpmに抑えられ、25.8kgf/4700rpmの高トルクにより、160~170kmの最高速度を容易に達成した。リアフェンダーには誇らしげに「最高速度105m.p.h.(約170km/h)」とペイント。当時としてはかなりハイスピードだったといえる。

ボディパーツの多くは「ポントン」こと180(W120型)から流用。フロントエンドは急角度なデザインだが丸みを帯びており、中央にメルセデス・ベンツのスターが付いたラジエータグリルは当時の市販スポーツカーSLを彷彿とさせている。特筆すべきはキャビン後方の2層に湾曲したリアウインドウ。ガラス職人の誇り高き功績を物語っている。この形状が実現できたため、300SLR(W196S型)およびF1マシン(W196R型)のフロントノーズが、まるで手袋に指を差し入れるようにぴったりと納まった。リアエンドのデザインは、300SLR(W196S型)をイメージさせる(リアライトと方向指示器)。ちなみにドアにはRennabteilung(レース部門)とペイントされている。

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