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軽自動車サイズで6人乗り! フィアット「600 ムルティプラ」は壊滅的に遅くても笑って許せるMPVのさきがけでした【旧車ソムリエ】

軽自動車サイズで6人乗り! フィアット「600 ムルティプラ」は壊滅的に遅くても笑って許せるMPVのさきがけでした【旧車ソムリエ】

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 神村 聖(KAMIMURA Satoshi)

古き良きイタリア映画の世界に没入したような、ちょっと不思議な感覚

そして、わずかながらもスピードが上がってくると、「ヌォーヴァ500」やセイチェントなど、RRフィアットに共通する操縦性も明らかになってくる。

おっとりした見た目の印象からは意外に感じられるかもしれないが、ステアリングフィールは正確でシャープ。くわえて、ステアリングギアボックスに至る以前に「く」の字に曲がった複雑なリンクを介するせいか、あるいは前輪の真上に座るフォワードコントロールゆえに、筆者の重い体重がダイレクトにフロントアクスルを圧迫するせいなのか、とくに据え切りではなかなか重い操舵力を必要とする。

したがって低速域では、いわゆる「手アンダー」が出てしまうものの、重心の高さから大きなロールを発生するコーナリング特性との組み合わせでは、この手アンダーと絶対的な遅さが、結果として安全性を担保しているともいえる。

現代の「ステランティス」フィアット部門公式のクラシックカー部門「FCAヘリテージ」が発表したデータによると、600D ムルティプラの車両総重量は1150kgに達するという。だから、このクルマ生来の目的どおり6名乗車で家族のラゲッジを満載してヴァカンツァに繰り出したならば、たとえば当時開通して間もなかった「アウトストラーダ・デル・ソーレ」や、北イタリアのアルプス山塊付近では、つねにエンジン性能めいっぱいの、なかなかハードな移動になっていたものと思われる。

また、キャビン内には排気音やら何やらがとどろいていたのも間違いないだろうが、当時このクルマを初めて手に入れた庶民の大家族たちは、それらの大騒音に負けない大声でおしゃべりしながら、楽しいヴァカンツァに赴いた……。

この600D ムルティプラに乗っていると、往年のイタリア映画の冒頭にありそうなノスタルジックなシーンの一部になったかのごとき、ちょっと甘い錯覚が、心の奥底に沸いてきたのである。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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