「フェラーリらしい形」の本質はエンジンにある
フェラーリのスポーツモデルには、共通する「らしさ」がある。低く構えたボディと、流れるようなプロポーションだ。多くのファンはこの流麗なフォルムを好む。だが、この形は美意識だけで生まれたものではない。じつは、エンジンの置き場所が大きく決めていた。
たとえば、F12ベルリネッタなどのV12をフロントに積むモデルを思い浮かべてほしい。前方に大きなエンジンを収めるぶん、ノーズは長く伸び、キャビンは後ろへと押しやられる。いっぽう、V8をキャビンの後ろに積むミッドシップは逆だ。エンジンが後方にあるからこそ、トランクはフロントに置かれ、キャビンも前へと詰められる。

つまり象徴的なプロポーションは、機械のレイアウトが落とす「影」のようなものだった。どこにエンジンを積むかで、フェラーリの根本的な形はおのずと決まっていたのである。
ところがルーチェには、その心臓がない。仮にV12を積んでいるかのようなロングノーズに仕立てたところで、それはスピーカーから流れる擬似エンジンサウンドと変わらない。あえてふたり乗りにこだわる理由もない。形の自由を手にした代わりに、フェラーリには新たなアイデンティティを確立するという課題が突きつけられたのだ。
誰がフェラーリを描いてきたか。ピニンファリーナ、社内、そして異分野へ
フェラーリのデザイン史は、大きくふたつの時代を経てきた。ひとつめは、1951年以来、名門カロッツェリア(デザイン工房)のピニンファリーナが「テスタロッサ」や「F40」など数々の名車を手がけてきた時代だ。ふたつめは、車両技術の複雑化に伴い、デザインと設計を一体で進めるべく移行した社内デザインの時代である。2010年前後に自社のデザインセンターが立ち上がり、2013年の「ラ・フェラーリ」を皮切りに内製化が本格化した。
そして、今回のルーチェだ。フェラーリは再び社外にデザインを託した。iPhoneのデザインを統括したジョニー・アイブらが率いる異分野のデザイン集団「LoveFrom(ラブフロム)」だ。クルマを丸ごとデザインするのは、彼ら自身にとっても今回が初めてとなる。社外から社内へ、そして異分野へ。フェラーリはクルマづくりの常識にとらわれない視点を呼び込んだ。
つまり、フェラーリは新たなアイデンティティを確立するために、あえてクルマの外から眼を借りた。こうして生まれたルーチェの型破りなデザインこそが、EVの時代に跳ね馬が踏み出した最初の一歩なのだろう。
新たな「らしさ」を創り出すフェラーリの挑戦と進化論
振り返れば、フェラーリはこれまでも多様化による型破りな挑戦を続けてきた。2011年に実用的なシューティングブレークという形に挑んだ「FF」や、ブランド初の4ドアとなった「プロサングエ」といった存在がその証拠だ。
生物学者ダーウィンの著書『種の起源』で提唱された進化論を引くまでもなく、多様性は過酷な環境変化を生き抜くために必須な生存戦略である。多様な種のなかで環境に適合できなかったものは、容赦なく淘汰される。自動車業界を取り巻く大きなうねりの中で、跳ね馬が絶滅することなく進化を続けるためには、多様化という選択が必然だったのだ。
我々がよく知るフェラーリらしさは、長い内燃機関の歴史をかけて少しずつ確立されてきたものだ。それと同じように、ルーチェという存在は、EVという未踏の分野において、まったく新しいフェラーリらしさを作り上げていく新たな挑戦の始まりである。







































