前代未聞の4ドアEV「ルーチェ」はフェラーリの未来に光を照らすか、影を落とすか
フェラーリが2026年5月、ブランド初の電動スポーツカーフェラーリ「ルーチェ」を発表しました。4枚のドアを備えたその姿は、見慣れた跳ね馬とは大きく異なります。なぜ、ここまで型破りなデザインになったのでしょうか。じつは「フェラーリらしい形」は、エンジンの置き場所が決めていました。そのカギを、デザインの歴史とともにひも解いていきます。
マラネッロ初の電動フェラーリ。4ドア5シートで登場した賛否両論の新型モデル
フェラーリ「ルーチェ」は、マラネッロが初めて世に送り出す電動のフェラーリだ。車名の「ルーチェ(Luce)」は、イタリア語で「光」を意味する。ボディは観音開き方式を採用した4枚ドアと5つのシートを備える。4ドアはフェラーリとしてプロサングエに続いて2台目、5シートは初となる。
「シンプル化」の設計思想で描かれた外観で最も目を引くのは、ガラスで覆われた広い面(グラスエリア)だ。シェル状の滑らかなフォルムが車体を包み、その周囲に前後の空力的なウイングが浮かぶように配置されている。鋭いプレスラインで攻撃性を表現してきた従来のフェラーリとは、一見して異なる造形である。

パワートレインは、各輪に1基ずつ、計4基のモーターを備える電動四輪駆動だ。これもフェラーリ初である。最高出力は772kW(1050cv)に達する。0-100km/h加速は2.5秒、トップスピードは310km/hまで伸びる。フェラーリを名乗るのに申し分ないスペックを誇る。床下には総容量122kWhのバッテリーを積み、航続距離は530km(推定値)に及ぶ。車両重量は2260kgだ。
しかし、このモデルに対する市場の初期反応は厳しいものだった。発表直後、フェラーリの株価は一時約6パーセントも急落する事態となったのだ。これまでの跳ね馬のイメージから大きくかけ離れた4ドア5シートの姿が、一部の投資家や伝統的なファンには大きなリスクとして映ったのだろう。
なぜフェラーリがEVを発売するのか? 規制と経営という側面
フェラーリはこの電動化を「持続可能性とパフォーマンスの融合」や「まったく新しいドライビング体験の提供」といった言葉でアピールしている。しかし、ルーチェの誕生には、それだけでは語れないもうひとつの背景がある。EUを中心とした厳格な環境規制の現実だ。
EUは2035年以降、CO2を排出する新車の販売を原則として禁止する方針を打ち出している。これに並行して、各メーカーには販売する全車両の平均CO2排出量を一定基準に抑える厳しい規制が課されている。もし基準値を1g/kmでも超過すれば、その年の販売台数1台につき「95ユーロ(約1万6000円)」もの多額の罰金が科される仕組みだ。
現在、年間1万台以上を販売するフェラーリにとって、CO2排出量が多いエンジン車だけを売り続ければ、基準超過による罰金はたちまち膨れ上がる。ラインアップに伝統のV12やV8を残すには、その強烈な数値を相殺し、平均値を一気に引き下げる「ゼロエミッション車(走行時にCO2などの排出ガスを出さない自動車)」がどうしても必要なのだ。
つまりルーチェは、未来のためのモデルであると同時に、現在のエンジン車を作り続けるための免罪符でもある。電動化はフェラーリの理念であり、巨額のペナルティを回避するための冷徹な経営判断でもあるのだ。

















































