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日本未導入のEJ25エンジン搭載! 英国仕様インプレッサWRX「SpecD」に欠けていた新3種の神器!?

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TEXT: 山崎真一(YAMAZAKI Shinichi)  PHOTO: iconicauctioneers  FACT CHECK: 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)

走行15万km超で記録簿なし。WRCで大人気車種となったインプレッサSpec D

1990年代中盤から2000年代前半にかけてWRC(世界ラリー選手権)を席巻し、世界のラリーファンを熱狂させたスバル「インプレッサWRX」。日本のみならず、英国市場でも絶大な人気を誇る名車である。2026年3月に英国で開催されたオークションに、日本市場には設定のない2.5リッターエンジンを搭載する「SpecD(スペックD)」が出品された。大人のスポーツセダンとして誕生した特別仕様車の価値と、コレクター市場のシビアな現実を確かめる。

丸目から鷹目へと変貌を遂げた2代目GDB型インプレッサの進化を振り返る

1995年から1997年までWRCマニュファクチャラーズ(メーカー)タイトル3連覇を成し遂げ、一躍ラリー界の主役に駆け上がった初代インプレッサWRX(GC8型)。その後継として2000年に登場した2代目のGDB型は、ボディサイズを拡大し、質感を高めることでより幅広い層に受け入れられる進化を果たした。車体の剛性や安全性は飛躍的に高まったが、初代に対して100〜150kgもの重量増を抱えることになり、とくに市販車ベースで戦う下位カテゴリーのモータースポーツでは戦闘力の低下を招いてしまう。

そこでスバルは「競技で勝つために市販車を進化させる」というコンセプトのもと、軽量化を徹底した「スペックC」モデルを投入する。さらにDCCD(ドライバーズ・コントロール・センター・デフ)の改良や足まわりの最適化、ブレンボ製ブレーキの大径化、ボディ補強、ホイールのP.C.D変更など、継続的なブラッシュアップを行った。

変更は機関だけでなく、外観も2度にわたり大きく手が入れられている。初期は「丸目」、中期が「涙目」、後期は「鷹目」と呼ばれ、マイナーチェンジごとに同じ型式とは思えないほど変貌を遂げた。なかでも初期の丸目は精悍さに欠けると評価され、販売面で苦戦したこともあり、早急にテコ入れされたと言われている。

控えめな上質さを追求した英国専用の特別仕様車であるスペックDの正体とは?

初代から継承されたEJ20型ターボエンジンも、進化の手を緩めることはなかった。最高出力こそ自主規制いっぱいの280psであったが、最大トルクは初期型の38.0kg-mに対して、最終型では43.0kg-mまで増強されている。扱いやすさと実用域での力強さを増すことで、クルマ全体の洗練度を大幅に高めることに成功した。

今回、アイコニック・オークショネアーズの出品リストに登録されたのは、鷹目世代に属する2006年式のインプレッサWRX STI「SpecD」だ。日本市場にこの名称の設定はないが、2006年に国内向けに用意された特別仕様車「A-LINE」がこれに当たる。

A-LINEはWRX STIをベースにしつつ、大型のリアウイングを省略。アルカンターラ生地のシートや金属調のインパネ、光輝調のアルミホイールを採用して上質感をアップさせている。さらにフェンダーインシュレーター(遮音材)を装着して静粛性を高めるなど、大人のスポーツセダンをコンセプトに開発された。

SpecDの「D」は「Discreet(控えめな)」を意味しており、従来のスパルタンなWRX STIとは一線を画す価値を提案するモデルである。

 

ライトチューンと過走行が影響? 出品された個体のコンディションを見極める

日本仕様のA-LINEと英国仕様のSpecDは、内外装こそほぼ共通だが搭載されるエンジンが異なる。日本仕様が2リッター水平対向DOHC4気筒ツインスクロールターボ(EJ20 280ps/43.0kg-m)を搭載するのに対し、英国仕様の鷹目モデルは2.5リッター水平対向DOHC4気筒シングルスクロールターボ(EJ25 281ps/40.0kg-m)を採用している(どちらも2006年仕様)。数値上のトルクのスペックは2リッター版が勝るものの、排気量が500cc拡大されたことによる全域での極太トルクは絶大であり、タイムラグのない滑らかな加速が魅力だ。

出品車両は工場出荷時のスタイルを保ちつつも、WRXの秘めたポテンシャルを解放するために各部がアップグレードされている。プロドライブ製の大型リアスポイラーや社外サスペンションの装着に始まり、各種ボディ補強、吸排気システムの交換など、ライトチューンの範疇で手が加えられている。

前オーナーの6年間の所有期間中、定期的なメンテナンスを欠かさなかったようで車両各部は良好なコンディションを保つ。しかし、新車時からの整備記録簿を紛失しており、過去の履歴を正確に追えない点が大きなマイナスポイントとなっている。

約215万円の予想価格に届かず流札となった中古車市場のシビアな現実に直面する

主催者であるアイコニック・オークショネアーズは、走行距離が9万4751マイル(約15万2000km)とやや多めであることを考慮しつつも、希少な特別仕様車であることを評価した。エスティメート(推定落札価格)は1万〜1万2000ポンド(邦貨換算約215万〜258万円)と、市場の相場よりもやや強気な設定を行う。

しかし、オークション当日の入札は伸び悩み、最終的には希望落札価格に届かず流札となってしまった。

コレクター市場において、整備記録簿の欠品と過走行が敬遠されたことは間違いない。それにくわえて、WRXはWRC直系のスパルタンな仕様こそが王道であり、快適性と上質さを重視したSpecDは異端の存在として人気面でやや劣るのが正直なところだ。ネオクラシック系スポーツカーの3種の神器「整備記録・低走行・一級の性能」に欠けているにもかかわらず、やや強気の価格設定と市場価値のズレが、今回落札に至らなかった最大の要因と言える。

とはいえ、ラリーベースの過激なマシンをあえて「控えめ」に仕立て直した大人のスポーツセダンというコンセプトは、当時としては早すぎたのかもしれない。記録簿がなくても、15万kmという距離を力強く走り抜いてきた水平対向エンジンの鼓動は本物だ。王道とは異なる価値観を持つこの異端児が、その秘められたロマンを理解する新たなオーナーに出会う日を心待ちにしたい。

※為替レートは1ポンド=約215円(2026年6月29日時点)で換算

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  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 1960 年生まれ 大学卒業後ベストカーガイド編集部勤務。1990年オートスポーツ誌に転職、1992年F1速報誌(アズエフ)編集長。1995年月刊ビデオマガジン編集部に転職、1996年ベストモータリング編集長(のち局長兼務)。2005年ネコパブリッシング・イベント本部長/4輪編集局長兼務。2015年交通タイムス社に転籍、2020年より現職(総編集局長)自動車の分野に問わずオールマイティだが、特に旧いモータースポーツとクラシックカーに造詣が深い。愛車は1969年DATSUN Fairlady SRL311/YAMAHA RD250ほか

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