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「冷えたバターを熱いナイフで切るような」とは、どんなシフトフィール?「アバルトの毒」は「跳ね馬」へのカウンターでした

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 郡大二郎/神村 聖/AMW編集部

「冷えたバターを熱いナイフで切るような」

もともとは「like a hot knife through butter」という英語の慣用句。直訳すれば「熱したナイフでバターを切るように」となるが、これは「いとも容易い」ことを表現するものとのことである。

この表記が自動車メディアに使われるのは、とくにポルシェのシフトフィールについて。そして登場したのは1950年代半ばごろ。英国の自動車雑誌あたりが発端ではないかと推測される。

その発端は、変速をスムーズに行うことができる補助機構「シンクロメッシュ」がまだ完全普及には至らず、装備していても2速から上のギヤのみだった時代の1952年に、高度なシンクロ機構を備えたトランスミッションが、ポルシェ356に採用されたことにある……、といわれている。

ポルシェが特許を有した、いわゆる「ポルシェシンクロ」。セルフサーボ式シンクロ機構つきのポルシェ356や初期の911のギヤボックスは、ほんの少しの抵抗ののち、吸い込まれるようにスッとギヤが入る。古き良き日産車をはじめとするポルシェシンクロ採用車両は、おおむねその傾向が強かった。

ただし端緒となるポルシェでは、リアエンジン車の宿命としてシフトレバーがリモート操作になることもあわせて、その操作感は「グニャ」とした少々あいまいなものとなった。

また、同じくポルシェについては「蜜ツボをスプーンでかき回すような」という手厳しいもの言いも存在したが、これも少々あいまいなシフトフィールを示す慣用句であろう。

だから、「カチッ」ないしは「コクッ」と表現される、往年の英国製スポーツカーたちのダイレクトなシフトフィールに慣れたかたわら、シンクロのない分ダブルクラッチも厭わなかった当時のスポーツカードライバーは、当初とまどいを禁じえなかったという。

くわえて、もし誤ってシフトダウンしてもギヤが入ってしまう強力無比なポルシェシンクロは、とくにナロー時代の911ではやたらとシャープな吹け上がりも相まって、ときにはエンジンをオーバーレヴさせてしまうことも……。

そんな逸話もまた、ポルシェ911の神話性を高めた要因のひとつとなったといえるのだが、1987年モデル以降の911カレラではトランスミッションがゲトラグ社製に変更され、いくらかクリック感のあるフィールになる。

ところが、こんどはポルシェシンクロ時代の独特なシフトフィールを懐かしむ声、あるいは「ポルシェシンクロを使いこなしてこそ、真の911の使い手」というマニアックな見方も、ひところはあちこちで見られた。筆者を含むカーマニアは、なんとも面倒くさい人種なのだ。

いずれにせよ、旧来のスティックシフト式マニュアル変速機が急速に衰退し、たとえマニュアル操作を行うとしてもシーケンシャルのパドル式。さらには、電動化によってトランスミッションの必要性すら薄れてしまう可能性が高い近未来においては、こういったシフト操作のフィーリングが論議のネタでさえなくなる日も、もはやそう遠くないことなのかもしれない……。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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