千載一遇の出会いともいえるアバルト最強のリアエンジンGT「シムカ2000コルサ」
2025年も5月23〜24日に北イタリア・ロンバルディア州コモ湖畔チェルノッビオで、ヨーロッパにおける最高の格式を誇るコンクール・デレガンス「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」が開催された。それに付随するかたちで、RMサザビーズ欧州本社がコモ湖と同じロンバルディア州の大都市ミラノ市内で「MILAN」オークションを開催しました。今回はそんな珠玉の出品ロットたちから、かつてはワークスカーとしてレースを闘った実績もある、美しいブルーのアバルト「シムカ2000コルサ」を紹介します。
フィアットベースではないアバルト究極のリアエンジンGTとは?
アルミボディを持つアバルト製ベルリネッタ最終進化形アバルト シムカ2000について語るには、まずはその源流であるアバルト「シムカ1300」について説明する。
1963年から実戦投入されたアバルト シムカ1300は、1964年シーズンからFIA-GTの「クラス1(最小排気量クラス)」が1L以下から1.3L以下に変更されたことに対応した、従来のフィアット アバルト「1000ビアルベロ」後継車として製作された純レーシングGT。設計・開発を担当したのは、その数年前にアバルト技術陣を率いることになったマリオ・コルッチ技師だった。
インジェニェーレ(エンジニア)コルッチは、フィアットと縁の深いフランスの大衆車「シムカ1000ベルリーナ」のフロアパンを110mm切り詰めた、ホイールベース2090mm(1000ビアルベロ+90mm)のシャシーを新たに設計。サスペンションやステアリングユニットも、シムカ1000用を一部改良・強化して流用していながらも、そのかたわらで、エンジンについては異なる方針が採られたようだ。
エンジンブロックからアバルトが新設計している!
アバルトがそれまで「フィアット アバルト」として開発・製作していたビアルベロ系DOHCユニットは、量産車であるフィアット600用の4気筒OHV3ベアリングエンジンのブロックを流用だった。
したがって、アバルト シムカ1300GTに搭載される1.3L DOHC(ティーポ230)ユニットも、シムカ1000用の4気筒OHV 944ccユニットを1288ccまで拡大し、アバルトお得意の自社製DOHCヘッドを組み合わせただけのもの……? と思われがちなのだが、じつはブロックからしてアバルトのエンジン担当エンジニア、ルチアーノ・フォッキ技師が一から新設計したものだったのだ。
こうしてレースに投入されたアバルト シムカ1300は、世界スポーツカー耐久選手権の1.3L以下GTカテゴリーにおいて、1000ビアルベロの戦果を継承するかたちで圧勝していく。さらにアバルトはイタリア国内選手権のGTレースや、当時の欧州で人気の高かったヒルクライム競技のため、エンジンを1.6Lに拡大した「アバルト シムカ1600GT」を開発。最終的にはGTクラス2を期した2Lの「アバルト シムカ2000」まで進化させていく。
1964 年にレースデビューしたアバルト シムカ2000は、200ps以上の最高出力を発生する1946ccエンジンを搭載。ウェーバー社がこれまでに製造したなかでももっとも口径が大きい58mm径ウェーバー製ツインチョーク式キャブレターを採用していた。
軽量かつパワフルなアバルト シムカ2000コルサは、国際規約のサーキットレースでこそ仇敵ポルシェ「カレラ904GTS」にはかなわなかったものの、ヒルクライム選手権やイタリア国内選手権のレースでは一定の成果を収める。そして、フェラーリやポルシェ、ジャガーといった巨人(ゴリアーテ)に立ち向かう、自動車界の「ダヴィデ」と見なされていたアバルトの存在感を、さらなる高みへと押し上げる原動力となったのだ。































































































































