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解体屋から救出!奇跡のパトカー・ポルシェ「912」を絶対に諦めない不屈の精神で入手した【自動車変態列伝】

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TEXT: フェルディナント ヤマグチ(FEDINAND Yamaguchi)  PHOTO: 増田貴広(MASUDA Takahiro)

本当ならスクラップにされる運命だった912パトカー

倉林「白バイもパトカーも事故は起きますよ。でも隊員で事故を起こす奴に意外性はありません。『なんであいつが?』ではなく『やっぱりあいつか!』というケースがほとんどです。事故を起こすのは例外なく調子に乗っている人間です。『俺は警官だ』『俺は白バイ隊員だ』って調子にのってイキっている奴。こういう奴が何度も事故を繰り返す。ここは一般のドライバーと同じですね。

一般ドライバーも、やっぱり同じ人が違反を繰り返し、同じ人が何度も事故を起こすでしょう。調子に乗る。これが一番危険なんです。あとはクルマやバイクの特性を知ることです。どう操作したら車体はどう動くか。それを学び、繰り返し練習する。学ばない奴、練習しない奴が事故を起こすんですよ」

それではこのお宝ポルシェについてうかがおう。倉林さんは、いったいどのような経緯で本物のパトカーを手に入れたのだろうか。

倉林「このポルシェはレプリカでも何でもない、神奈川県警が使っていた、正真正銘本物のパトカーです。昔も今もパトカーは絶対に払い下げをしないんです。悪用されたら困るからね。ポルシェ 912のパトカーは大阪、愛知、京都、神奈川4府県に1台ずつ配備されたのですが、現存するのはこの1台だけです。あとはすべてスクラップにされてしまいました。解体なんて生やさしいものじゃない。

大きなシュレッダーにクルマを丸ごと放り込んで、細かく切り刻んでしまうんです。無線機のような、高額でほかのパトカーに使い回しができるものは外しますが、あとは部品の取り外しも一切しない。本当に丸のまま粉々にしちゃうんです。

こいつも本当なら同じようにスクラップにされる運命にあった。しかし、引退後はナンバーを抹消して、警察学校のホールに展示されていました。ところが卒業して何年も経ってから見に行ったら、展示されているはずのポルシェがない。『ポルシェのパトカーはどうしたんですか?』と聞いたら、『裏にあるよ』と。誰も入らない裏のガレージでホコリまみれになって放ってあったんです。そして『いま解体してくれる業者を探しているんだ』と。

展示するにも解体するにもコストがかかるから、やむなく裏のガレージで放置していたわけなんです。それなら私に下さいと懇願したのですが、たとえ警察官でもダメなものはダメ。パトカーの払い下げはしないの一点張り。しばらくしたら、解体してくれる業者が見つかったみたいで、『解体屋に送ることになったから』と。そして『あとは君が自分で交渉しろ』と言われました。

早速その解体屋さんに飛んで行ったのだけど、いくら頭を下げて頼んでも、『警察との約束で、絶対に売れない』と取り付く島もない。そりゃそうですよね。向こうだってリスクを犯してまで売る義理なんてありませんから。

半年あまりその解体屋さんに通いました。そうしたら最後は『書類もないし登録できないから。本当に悪いことには使わないでくれよ』と言って折れてくれた。悪いことなんかに使いませんよ。こっちは現職の警察官なんだから(笑)。今から20年も前の話です」

この執念。この粘り。解体工場で百度を踏んで、遂に念願のポルシェ・パトカーを手に入れた。だが倉林さんは眺めるだけのコレクターではない。どうしてもこのクルマを公道で走らせたい。しかし肝心の書類はない。当然ナンバーもない。さてどうしたものか。

1度海外へ送って再輸入!無事ナンバー付きでガレージへ迎い入れた

倉林「ここでウルトラCの大技を使いました。いったん海外に出して、また輸入し直すんです。そうすれば輸入新規ということで堂々とナンバーが取れる。友だちの紹介で九州を経由してフロリダまで送った。ところが待てど暮らせどクルマが戻ってこない。パクられたんじゃないかと騒いだりもしたのだけど、その友だちは『いや、大丈夫大丈夫、そのうち戻ってくるから』と余裕で笑っている。

騙されたんじゃないかと心配でしたが、1年後には本当に戻ってきました。戻ってきたら今度は陸事さんとの交渉です。散々やりあいましたよ。最初のうちは横の文字を消せ、赤灯を外せ、サイレンを外せ、スピーカーも外せ、と役所みたいなことを言う。まあ本当に役所だから仕方がないんだけど、言うことを聞いていたらパトカーじゃなくなっちゃう。ただの古いポルシェじゃないですか(苦笑)。でも陸事さんも鬼じゃない。何度も通って自分の思いを伝えると、徐々に折れてくれました。

エンジンのオーバーホールもしたので、今ではセル1発で普通に走ることができます。もちろん外を走るときは赤色回転灯でカバーをして、ボディの神奈川県警察『奈川県』の部分に白いマグネット貼って『神警察』とかにしなくちゃいけませんけど(笑)」

漫画「巨人の星」の歌詞を地でいくようなど根性の真正ヘンタイ倉林さん。ご自宅のガレージには、ほかにも複数の白バイやらジャガーEタイプ、フェアレディ240Zなどと目も眩むようなお宝が並んでいる。

「でも新しいクルマはカミさんの軽だけなんですよ」

と頭を掻くのだった。

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