純正?改造車?アメリカのみで販売されたTバールーフのカムシン
2025年10月、欧州で開かれたクラシックカーの名門オークションに、世界的にも珍しい“Tバールーフ仕様”のマセラティ「カムシン」が出品されました。この車両は、1970年代にアメリカの正規ディーラーが特別に仕上げたモデルで、その来歴が大きな注目を集めました。長年にわたり複数の愛好家に受け継がれ、機械面も内外装も丁寧に整えられたことで、オークションでは高い関心を集めていました。
初代ギブリの後継車はガンディーニの隠れた傑作
マセラティ「カムシン」は、1972年秋のトリノ・ショーで「ベルトーネ」の自主デザインスタディとして初登場した。翌1973年のパリ・サロンでは、マセラティの生産モデルとしてショーデビュー。それまでのマセラティ史上最高のヒット作となった初代「ギブリ」の直接の後継車であった。同社のフラッグシップとなる最高性能スーパースポーツの座を、ミッドシップの「ボーラ」と分けるかたちとなった。
4.9Lの排気量から320psを発生する、4カムシャフトのV8エンジンをフロントに搭載し、後輪を駆動するレイアウトはギブリと共通である。しかし、独立懸架の採用によりデフをシャシーに固定した結果、リアのトレッドを大幅に拡大することで後席の+2シートのためのスペースを捻出し、開発段階でマーケットとして有力視していたアメリカ市場での優位性を確保した。
ボディデザインは、ギブリを手掛けたカロッツェリア「ギア」がデ・トマゾを経由してフォードの傘下に収まったため依頼が困難となり、マセラティの量産モデルとしては初めてベルトーネに委託することになる。
当時、同社のチーフスタイリストだったマルチェッロ・ガンディーニの作品らしく強烈なウェッジシェイプスタイルをとるため、リアデッキが極端に高いデザインとなってしまった。しかし、コーダ・トロンカ調に切り落としたリアエンドを着色ガラスパネルで構成し、テールランプやバッヂ類を残して透明化することで、ハイデッキ化の結果として死角の増えてしまった後方視界を確保することに成功した。そしてシンプルで清新なウェッジシェイプのプロポーションに、この天才的なアイデアも相まって、近年ではガンディーニの傑作のひとつとして挙げられることも多くなっている。
またカムシンでは、ボーラで用いられたブレーキやシート調節機構以外にも、パワーステアリングやブレーキシステムにも、当時の親会社シトロエン特許のハイドロニューマティックが導入された。しかし、マセラティの手作り生産では精度などに問題があったようで、トラブルの原因となってしまうことが多かったと言われている。
さらにオイルショックの煽りを受け、また前述した信頼性の低さもあってセールスが低迷したカムシンは、マセラティがデ・トマゾ傘下に収まったのち、ビトゥルボ系を中心とする構成へとラインナップの見直しを図った結果、1982年をもって生産終了した。生産台数は430台(ほかに諸説あり)に留まったが、翻って現在ではその少なさが希少価値としてみなされているようだ。
























































































































































