最初のコーナリングで心を奪われた
「131ラリー」という名を背負うだけあって、その走りは随所にラリーカーのプライドが感じられるものだった。センターパネルのスコーピオンボタンを押すとスポーツモードになって、急に獰猛なほどの本性を現してくるのだ。ただし街乗りでは前車に追突しそうな勢いのトルクを発揮し、臆病者の筆者には刺激が強すぎたようだ。とくに渋滞がちな都内では封印しがちになってしまうのは残念だった。その分、ノーマルモードではターボに物言わせ、パワーに任せて走らせると小柄なボディゆえによりダイナミックな挙動を感じ取りながらドライブを愉しむことができる。
ちなみに筆者の愛車は超ローテクマシンでパワステもついていないし、電子制御のたぐいは一切装備されていない。そのためこのアバルトに乗り込み、エンジンを始動しようとするとエンジンスターターボタンではなく、キーをシリンダーに差し込むところから気に入ってしまった。走りにおいてもラリーカーをオマージュしているだけの覚悟が感じられ、それは、走り出して最初の交差点でのコーナリングで感じられた。ハンドリングの応答性が抜群でキレがあり、操舵角と侵入スピードに比例したステアリングの重さがダイレクトに手に伝わってくる感覚は、運転する愉しさそのもの。ハイテク武装された昨今のクルマばかりのなか、クルマと対話しながら走る感覚は忘れがちだが、一瞬一瞬の挙動を感じ取りながら走ることが愉しいと思わせてくれるクルマに久しぶりに出会った気がする。
陽気なお国柄を感じられる愉しい走り
勝手な偏見ではあるが、イタリア人は陽気で日常を愉しんで生きているイメージがある。実際、同じラテン民族でスペイン人の知人が筆者にはいるのだが、まさに誰にでもウェルカムな陽気なセニョールなのだ。だから会うたびに元気をもらう。そんなあけっぴろげで陽気な性格で、日常を愉しむというマインドはクルマにも現れているのだと、今回の試乗を通して大いに感じさせてもらった。純粋に、そして無心に愉しむ経験を提供してくれるのがクルマでもある。しかも一緒にそれをつくり上げている感覚も味わえる。どんなハイテク装備よりも、「愉しい」を装備したクルマが最強なのだ。
真面目で几帳面な日本車もいいけれど、陽気で日常の些細なことも愉しく感じられるようなイタ車魂に、筆者の大和魂は見事に進撃されてしまったのだった。
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