舗装路がまるでボーリングレーンのようだった
ロールス・ロイス初の市販電気自動車「スペクター」を、オーナーがしないであろう長距離ドライブに連れ出しました。オーラにまみれた“ウルトラ・ラグジュアリー・エレクトリック・スーパー・クーペ”は、走り出した途端に試してよかったという幸福感に満たされるほどです。
今まで通りに動かせば良い
全長5.4m超え。幅はもちろん2m超える。高さもほぼ1.6mで、ホイールベースに至っては2ドアながらなんと3.2mオーバー。ロールス・ロイスとしてはごくごく標準的なボディサイズ、かもしれないけれど、それでも以前の2ドアモデルであるレイスに比べるとひと回りは大きい。音もなく近づくスペクターはほとんどSUV級の威圧感である。
大きさだけじゃない。スタイリングも異様だ。オーラにまみれている。フロントマスクはいかにもロールス・ロイス、それ以外の何者でもなし。誰もが道を空ける、どころか頭まで垂れる。
そういう意味ではフロントからの眺めに個性はない。むしろ異様さを感じるとすればそれはリアからの眺めだ。エレガンスとは実に“外し”の美学、つまりは確信犯であると改めて知る。
そんなリアセクションの見どころはやはり大きく張り出したフェンダーと、そのうえでルーフからリアエンドへと潔くくだるラインのダイナミックな組み合わせ、だろう。レイスから続くロールスクーペの新たなデザイン文法もきっちり備わっている。
大きな後ろヒンジドアを開けた。独特な香りが漏れてくる。クルマ好きならばいい意味でクラクラする香りである。シートというよりもソファと言いたくなるような厚手の運転席に収まってみる。いつ座ってもロールス・ロイスのシートは素晴らしい。これ一脚で軽自動車くらいは賄えそうだ。
フル電動になったからといってドライバーを狼狽させることはない。今まで通りに動かせば良いと、ただ包み込むようにクルマが存在している。そろりと発進。微速域における所作の精度こそが超高級車らしさの見せどころ。フル電動カーというと鞭打ちになりそうな加速を期待する傾向が強いが、あれはむしろバッテリーと電気モーターによる出力を制御し切れていなかったためであって、決して凄まじい加速性能を狙ったわけではなかった。綿密かつ正確に制御できれば、スペクターのように気持ちよく自然に、ドライバーの思うまま巨体を動かすことだってできる。














































