ドリフトマシンしか作ったことしかない
軽自動車だけのレース、東北660シリーズで注目を集めるHA36カップには、さまざまなショップやプライベーターが挑戦しています。今回は、マツダのロードスター専門店でありながら軽自動車レースに挑んだ1人の若いドライバーに密着し、参戦までの背景とレースでの成長を追いました。
初の軽自動車メイクで苦闘した末に掴んだ表彰台
東北660シリーズで唯一のワンメイクレースが、2025年で4回目のシーズンを迎えたHA36カップである。車種が同一なうえ、他のカテゴリーより改造範囲が狭く、セットアップの優劣と走り込みの量が勝敗に直結する。
そんなレースにまったくの「異業種」からエントリーしているのが、岩手県の「ラヴィッシュモーターワークス」を率いる田中翔馬である。同店はマツダのロードスター専門店として知られるだけでなく、得意とするカテゴリーはグリップよりもドリフトだ。実際にHA36カップ参戦前はグリップで走った経験がほぼなく、またレース車両を製作したこともなかったと田中は振り返る。
しかし、東北660シリーズが盛り上がっていることを見聞きし、クルマを走らせる奥深さと楽しさをさらに極めたいと思い立ち、最新のカテゴリーであるHA36カップに参戦することを決意した。
すぐにスズキHA36型「アルト」の5速MTを購入し、手探りで製作をスタートさせた。ロールケージや4点式シートベルトなどの安全装備に加え、近隣のプロショップ「パルスポーツ」の協力でECUも開発。HA36カップ用レースカーの基本形はすぐにでき上がった。
しかし、グリップ走行が未経験に近かっただけに、当初はタイムが伸びず苦しいレースが長く続いた。表彰台どころか下位に沈むことも少なくなかったが、その間にも田中は我慢強くデータを蓄積し続けた。
結果に結び付いたのは2025年の開幕戦、6月29日のエビスサーキット東コースでのレースだ。予選で3番手という好ポジションを獲得し、決勝も順位を落とさず3位でフィニッシュ。さらに1分21秒628でファステストラップまで記録した。
FRのようなサス特性を目指して特注リアスプリングを製作
大躍進の原因はサスペンションにある。フロントを中心に従来から大幅なセッティング変更を施したそうで、アクセルを踏むとリアが沈み込むFRのような特性を目指したという。そのためにスプリングのメーカー「HAL」にて、低反発の樽型リアスプリングを特注で製作してもらった。
車高調キットそのものはHA36カップで何度もチャンピオンを獲得している「ARYレーシング」製だ。キャンバーはボルトで4段階の調整ができるため、セッティング幅が広く使いやすい。また自社のアライメントテスターで入念な測定と調整を繰り返し、万全のコンディションで2025年の開幕戦に挑んだ。
ラヴィッシュは歴代ロードスターを中心に足まわりの再セットアップ依頼が多く、ロードスターのドリフトに限らず多種多様なリクエストに対応してきた実績がある。それらの経験が今回のレースにも活かされたのだろう。
ボディ前面ラッピングによって存在感とレース中の無用な接触を予防
もうひとつ大きく変わったのはボディのカラーリングだ。2024年までは代車にも使えそうな真っ白だったが、気分を一新するため全面にラッピングを施した。剥がれやすい角の部分には丸型のシールを貼り付け、カッコよさと耐久性を両立させたのが自慢のポイントである。運転している自分のテンションが上がることに加えて、レース中は他車へ存在をアピールできる効果もあり、無用な接触を避ける副産物までもたらしてくれそうだ。
初の表彰台をゲットした田中だが、もちろん、それで満足はしていない。勝ち負けより楽しむという大前提を決して忘れず、より速いタイムと上のポジションを狙っていく。
















































