アバルト風のパーツで仕立てられてはいるものの……
このほどボナムズ「Scottsdale 2025」オークションに出品されたフィアット 850 ベルトーネ製スパイダーは、リアエンジンのイタリアンランナバウトの魅力的な1台ながら、あくまでアバルトの「エッセンスを注入した」850スパイダーのようである。
今回のオークション出品者でもある現オーナーの主張によれば、この車両はアバルト OT1000スパイダー仕様にアップデートされており、いずれかの段階で「1000TC」などと同排気量の982ccエンジンにコンバートされているとのことであるが、公式オークションカタログの作成時点では、裏付けをとるまでには至っていなかったようだ。
このクルマは、フィアットとアバルトの熱狂的なエンスージアストである現オーナーが、2020年に入手したものとのこと。古い時期にレストアされたと推測されるこの個体は、今なおクラシックレッドのペイントに本格的なブラックの内装とソフトトップを備え、フレッシュで魅力的な仕上がりとなっている。
その小さなボディサイズにもかかわらず、850スパイダーのコクピットは大柄なドライバーにとっても驚くほど快適。コクピットは美しく整然としており、当時モノの「フェレロ(Ferero)」社製スポーツステアリングホイールの奥には、「ヴェリア・ボレッティ(Veglia Boretti)」のメーターがずらりとドライバーの方を向いている。
また「1000 OT」バッジや独立ブランチの排気マニフォールド、フリーフロー式アバルト社製マフラーなど、アバルトのコスメティックとパフォーマンスが強化されている。
ただし、軽量なカンパニョーロ社製マグネシウムホイールが装着されているものの、これは同じカンパ製でも「エレクトロン101」といわれる汎用型で、いわゆる「アバルトパターン」ではない。
リザーヴなしの出品スタイルで落札価格は……?
それでもオークション出品に際して、
「あなたのお気に入りの曲がりくねったワインディングロードにおいて、このハンサムな小さなバルケッタのリアに搭載されたアバルト風味のフィアットエンジンに、最高にガッツのあるサウンドトラックを奏でさせるという喜びを損なうものではないだろう」
という、ちょっとのん気な感もあるPRフレーズを添えつつ、ボナムズ社は5万ドル〜6万ドル(邦貨換算約775万円〜930万円)という自信たっぷりのエスティメート(推定落札価格)を設定。その上で「Offered Without Reserve」、つまり最低落札価格は設定しなかった。
この「リザーヴなし」という出品スタイルは金額を問わず確実に落札されることから、とくに人気モデルではオークション会場の雰囲気が盛り上がり、ビッド(入札)が進むことも期待できる。ただしそのいっぽうで、たとえビッドが出品者の希望に達するまで伸びなくても、落札されてしまうというリスクも二律背反的に持ち合わせる。
そして迎えた競売では、エスティメート下限を大幅に割り込む2万8000ドル、日本円にして約425万円という、出品者サイドの期待を大きく裏切る落札価格で競売人のハンマーが鳴らされることになったのだ。
とはいえ今回のエスティメートは、カタログに記された車両の来歴やチューニングの度合いを見る限りはオプティミスティックといわざるを得ないものでもある。それでも、通常の850スパイダーの相場価格よりは少し高めであることから、チューニングやドレスアップの仕上がりは評価されたということなのであろう。
ちなみに、アバルト製のOT1000スパイダーがマーケットに売りに出される機会は少ないが、もしも本気で入手を希望されるならば、日本円で1000万円前後の出費は覚悟しておくべきと思われる。
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