GTとしての濃度を高めたアストンマーティンの世界観
新型ヴァンテージ ロードスターでは、コンソールに配置されたダイヤルで操作する走行モードが従来の「SPORTS」「SPORTS+」「TRACK」「WET」に加え、インディビジュアルを加えた計5モードとなった。
まずはデフォルトである「SPORTS」モードでスタートした。さすがに街中で665psを開放することはできないが、スムースなトルクの盛り上がりにその片鱗は感じられた。
基本設計を共用するメルセデスAMGのV8ツインターボエンジンがドロドロ音を強調した、やや露悪的なワイルド系エキゾーストノートを放出するのに対して、ヴァンテージのサウンドは異なる。約60年前にタデック・マレック技師が設計した古き良きアストンV8を連想させるサウンドだ。往年の自動車雑誌の表現を借りるなら、「木管楽器的に」スウィートな咆哮を聴かせてくれる。
しかし、エンジンの情感を評価軸とするならば、ヴァンキッシュのV12ツインターボユニットは1枚上である。ダイヤルを回し、デフォルトの「GT」モードから「SPORTS」ないしは「SPORTS+」モードに切り替えると、レスポンスもまるで自然吸気エンジンのようにシャープになる。排気音もじつに魅惑的だ。
最新のフェラーリのようなモダンなV12サウンドというより、前世紀のV12エンジンのような野太い咆哮だ。スロットルを撫でるように踏むだけで、レスポンシブにトルクが爆発するとともに、伝統的なV12のバリトンを朗々と聴かせてくる。新型ヴァンキッシュは、極上のV12エンジンを思う存分に味わうためのクルマとさえ思えてしまう。
今回の試乗は都心でのショートドライブだったため、2台ともにエンジンフィールに主眼を置いたインプレッションとなった。しかし、当代最新のアストンマーティンGTたちは、シャシー性能についても出色のできばえを示してくれた。
先代の「ヴァンテージ」および「DBSスーパーレッジェーラ」は、以前のアストンと比べるとかなり軽快感を意識し、このクラスとしてはアジリティ志向の高いモデルであるように感じられた。ところが新世代の2台は、ともにDTXアダプティブダンパーの効用もあってか、驚くほどに乗り心地が良い。さらにハンドリングも、デフォルトのモードでは格段にしっとりとナチュラルだ。そのうえ「SPORTS+」モードにすると、ともに先代モデルと同レベルのリアルスポーツ的なアジリティを披露する。
唯一、筆者の好みに合わなかった点を挙げるなら、ステアリングリムが平均的な日本人の掌には明らかに太すぎることだ。せっかくの繊細で正確なステアフィールを少しばかり損ねているように感じられた。しかし、それも敢えて重箱の隅をつつけば、という程度の問題である。
この2台の素晴らしき英国製GT双方に共通して言えるのは、次の点だ。
ユーティリティを求める顧客のための「DBX」シリーズや、走りのパフォーマンスにすべてを注入できる「ヴァルハラ」の登場により、アストンの保守本流である上質なグランドトゥアラーとしての本分を、より明確に追求できるようになった成果である。さらに、その伝統とキャラクターを今一度追求したことにより、「子供にゃ分かるまい」と言いたくなるような、豪快ながら滋味深いアストンマーティンの世界観を堅持している。
主たる購買層の変遷により、超高級車の世界であっても「分かりやすさ」が求められる現代にあって、このようなコニサー(通人)好みのグランドトゥアラーを最新機種としてラインナップの最前線に置くアストンマーティンの、矜持のようなものを感じさせてくれた。



























































